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ニコニコ超会議2019「超テクノ法要×向源」の舞台裏
- 2019/6/27
- イベミラReport
イベントの未来をつくる105人では、さまざまなイベントを主催し、そのレポートを掲載しているが、今回は開催中のイベントの現地レポートとインタビューをお届け。イベントの未来をつくるボードメンバーである友光雅臣さんが体験コーナーを担当した「ニコニコ超会議2019」での「超テクノ法要」の舞台裏をお伝えする。
2019年4月27日(土)、28日(日)の2日間にかけて、株式会社ドワンゴが主催するネット発&日本最大級の文化祭「ニコニコ超会議2019」が千葉県・幕張メッセにて開催された。
ドワンゴが提供する動画共有サービス「ニコニコ動画」のオフラインミーティングであるニコニコ超会議のコンセプトは「ニコニコ動画のすべて(だいたい)を地上に再現する」。
ボーカロイドやVTuber、歌い手や声優といった、普段はWeb上で発信されているコンテンツがひとつの会場に集まるほか、その様子がニコニコ動画でも放送され、コメントを通して会議に参加できる仕組みになっている。
「同じって、うれしい。違うって、たのしい」がキャッチコピーのニコニコ超会議2019にボーカロイドやVtuberなどのファンが集まるなかで、ひときわ異色を放つブースがある。それが「超テクノ法要×向源」だ。
元DJの僧侶・朝倉行宣さんが手がける「超テクノ法要」は、浄土真宗の世界観をテクノミュージックを乗せながらプロジェクションマッピングと融合させた映像で表現する、新しい “法要” のこと。
同じく元DJの僧侶であり、寺社フェス「向源」代表である友光雅臣さんが体験コーナーを担当し、音楽と体験を通して参加者に仏教の世界を体感してもらうことが狙いだ。
開催2年目となる2019年は「超テクノ法要」がステージを盛り上げるなかで、初音ミクの形をした「初音ミロク菩薩」の製作風景を生配信したり、お坊さん・牧師さんと15分間無料で話せる「お坊さん・牧師さんと話そう」を開催したりと、ニコニコ超会議ならではのコンテンツを手がけた。
宗教ブースというと距離を感じてしまいがちだが、10代〜20代の若者やコスプレイヤーなど、老若男女問わず幅広い来場者が参加していた「超テクノ法要×向源」。
パフォーマンスの動画撮影が許可されていたり、QRコードを読み込んで回答した参加者アンケートの結果がプロジェクションマッピングに反映される「サイバー南無南無」が会場を盛り上げたりと、テクノロジーと掛け合わせることで、ただ “観る” だけでなく “参加” できるコンテンツが詰まっている。
「超テクノ法要」では最前列で動画を撮ったり手を合わせて拝んだりと、さまざまな姿勢で仏教と触れ合う参加者の様子が見られた。
他にも「声だけでつくる音楽×お経」や「お経+ミュージック=ブッダ・サウンドプロジェクト」などのパフォーマンスも多くの来場者を集め、「お坊さん・牧師さんと話そう」「サイレント座禅」などの体験コーナーとあわせて会場を大きく盛り上げた。参加者の顔には笑顔が溢れ、新鮮な心持ちを得る様子が感じられた。
大盛況だった2日間を終え、「向源」代表でイベントの未来をつくる105人ボードメンバーでもある友光雅臣さんと株式会社ドワンゴの高橋薫さんに、企画の狙いやニコニコ超会議ならではの工夫についてお話を伺った。
−−「超テクノ法要×向源」を企画したきっかけと、ねらいを教えてください
ドワンゴ・高橋:テクノ法要のお手伝いや生中継を何度かniconicoで行っているうちに、このテクノ法要をniconicoで最大のイベント「ニコニコ超会議」で実施できないかなと考えまして。朝倉行宣さん(テクノ法要を行う福井県・照恩寺の住職)に相談してみたところ「それだったら一緒にやれると面白いお坊さんがいるよ」と紹介されたのが、友光さんでした。「じゃあ一緒にやりましょう!」ということでコラボレーションすることが決まって。
友光:高橋さんが端折っているところでちょっと説明を追加すると、テクノ法要だけだと超会議にすでにある大きなステージのなかの1コンテンツとして行う可能性もあったんですよね。それではせっかくの新しい仏教コンテンツも「何か変わったステージだなあ」という感想で終わってしまう。
高橋:はい、それではもったいない。せっかくならステージのパフォーマンスに加えて体験企画を組み合わせて一つの大きなブースにしてしまおうと考えまして。
友光:そこで、朝倉さんとドワンゴさんからお声がけいただき、寺社フェスなどを開催している「向源」が体験コーナーを担当することになったんです。
そこで、ブースに来てくれたかたに「仏教って何だろう」と考えてもらったり「自分はこういうことを感じていたんだ」と気づいてもらうきっかけになるようにコラボレート企画を考えました。
ニコニコ超会議(以下、超会議)は “会議” という名前の通り、出演者も来場者もみんなが参加して発言権を持てる空間。
向源には「源に向かう」という意味があるように、自分自身が何を思っているかだったり、自分のなかにある声を大切にすることだったり、自分に気づくことを大事にしているので、仏教の布教は目的にせず、仏教や日本文化を通じて自分自身が何を考えているのかを感じてもらえる場にしようと思いました。
−−ニコニコ超会議のなかでも、宗教ブースはかなり珍しいと思います。そのなかで「超テクノ法要×向源」だからこその役割は何だと考えていらっしゃいますか?
友光:街中にあるお寺や神社のように、ほっとできる場所を提供することだと思っています。みんながさまざまなブースで物を売ったり、パフォーマンスをしていたりするなかで、お寺や神社の役割は騒がしい空間のなかでも「ほっとできる場所」「休める場所」なのではないか、と。楽しんだあとに少し落ち着いて自分のことを振り返る場所を提供したいと思い、安心して自分を開ける空間にすることを意識しました。
高橋:普段は気づかないけれど、自分たちの生活に深く関係しているものに触れてもらうきっかけになれたらと考えています。仏教は、日本の伝統の裏側にずっと続いてるものだと思うんです。お葬式=仏教というイメージがついてしまっているなかで、それだけではないという部分で宗教という形ではなく日本の伝統文化の文脈で伝えるということを重視しました。
−−初回である去年と比べてお客様の反応は変わりましたか?
友光:今年は朝11時のテクノ法要に合わせて、多くの方が来てくださりました。朝11時にステージ前到着するとしたら朝の何時から並んでいるのか、と考えると、とても嬉しかったです。
去年は「ニコニコ超会議にくる方はどのようなコンテンツが好きなのだろう」と悩んでいたのですが、僕たちが普段やっていることを楽しんでくれたので、今年は安心して企画できました。他のブースをまわっているときも「テクノ法要のお坊さんですか」「『お坊さん・牧師さんと話そう』に興味があるので、あとで行きます」と声をかけてくださって……。お互いがやりたいことをやりつつ尊重し合えているので、居心地がいいですね。「うちの寺も街に馴染んだなあ」という感覚です(笑)。
高橋:昨年テクノ法要も好評だったのですが、実は「お坊さん・牧師さんと話そう」がとても人気だったんです。普段はお寺に行かないような若い人がお坊さんと話している姿があったり、お坊さんからも「いつも話せないような方から真剣な質問を受けてびっくりしました」と感想をもらって。
なので友光さんも言ってますが、こういうものが受け入れられるんだ、ということがわかっていたのでさらにブラッシュアップを考えることができました。このブースは超会議で珍しい「暗いブース」なんですが、それを強調したり、その中でテクノ法要以外の企画を目立たせるにはどうしたらいいかを考えたり。去年なかなか伝え方が難しかった座禅などにも来場者が並んでいるのをみて、本当に良かったなーと思ってます。
−−お二人はそれぞれコラボレーションすることのメリットをどのように感じていますか。
友光:3年前に1週間ほど「向源」を開催して1万5000人が来場するイベントを作ったのですが、プロモーションから当日の運営までの全てをボランティアで回すことはとても大変でした。今回ドワンゴとコラボレーションさせてもらうことで、十何万人もの方々と接触する機会を持てるうえに、チケットの販売や場所取り、プロモーションなどのオペレーションも手伝っていただけるのは、メリットしかないと感じました。
そして何より、幅広い層の方と触れ合えることも良いですね。ニコニコ超会議には日本文化や仏教が好きという方が少ない一方で、ゲームやアニメを通して宗教のモチーフに触れてきた方が来てくれる。そこで「お寺でお坊さんに話を聞いてもらうまででもないけれど、少し興味がある」という方が気軽に足を運んでいただけるので、普段関わりの少ない10代・20代の方たちと接触できるのはありがたいです。
高橋:主催者・参加者関係なくみんなにとっての「出会いの場」になることが一番のメリットだと感じます。僕だって、普段だったら友光さんとも出会わなかっただろうし……。ニコニコ動画を飛び出したリアルな場だからこその出会いもそうですし、ネット上の生放送でもコメントをしてくださる方のなかに仏教に詳しい方がいて、それを読んだ方との会話が生まれていますし、さまざまな出会いに繋がっていると思います。それにこのブースでニコニコに触れてくれたお坊さんたちが、ニコニコで活動をしてくれることにも繋がりましたしね。笑
−−それでは最後に、ニコニコ超会議の成功を経て、今後はどのように進んでいきたいのか教えてください。
友光:「こうなりたい」「こうなってほしい」という狙いや作為を抱いても空回りする現場なんだろうなと感じて居ます。超会議のお客さんだからこうすれば喜ぶだろうとか、変に寄せることはせず、手加減無しにその時そのときのベストを尽くすことで本気のコミュニケーションが生まれるのかなと思っています。そういう意味で今後や超会議の中での立ち位置などに関しては、高橋さんをはじめとしたドワンゴの方がブレイン(脳)となって考えてくれているので、僕らは現場の筋肉として動いています。
高橋:そうですね。超会議にブースを出し続けるという目標はありますが、伝統文化や仏教にテクノロジーが合わさることで、超会議以外の場所にも偏在していく状況を作りたいです。普段は存在しているけれど見えない “仏教” をテクノロジーで可視化し、その橋渡しになれればいいな、と思います。
(取材・文/撮影*=高城つかさ、編集=樋口陽子)
*クレジットのある写真は「ニコニコ超会議」公式より