8月9日から11日までの3日間、神戸国際展示場で「第24回神戸国際宝飾展(IJK)」が開催された。当初の予定では、例年同様5月開催の予定だったが、緊急事態宣言による大規模展示会の開催自粛を受け、8月に延期開催したもの。また、IJKは、見本市主催会社のリード エグジビション ジャパン(以下、リード社)にとって緊急事態宣言解除後、初の展示会。再開第1号の展示会として、新型コロナウイルス感染症の対策も徹底されており、リアルな商談風景が展示会場に戻ってきていた。
IJKでは出展者は例年600社集めているが、今回は新型コロナウィルス感染症の影響もあって約200社が参加。来場者は3日間で5,919名(前回13,883名)となった。全面オンライン開催に切り替えて展開する展示会主催者もあるが、リード社ではオンライン販売の特設サイトなども新企画として盛り込んでいるもののリアルにこだわり、IJK以降の主催展示会はすべてリアルでの開催宣言をしている。
IJKでも、リアル開催を安心安全に実施するため、受付や会場内にサインやスタッフ対応による運営体制で展開されていた。
3つの約束で入場制限 出展者への無償配布も
神戸国際展示場に到着すると、会場外に設置された受付で入場証を受け取るまでは、待機列に1m間隔のソーシャルディスタンス補助線や受付との透明間仕切りがある以外は、いつも通りの展示会だ。
いざ、展示会場へと入ろうとすると、入館チェックの入り口がホール1とホール2の2箇所に設置されており、そこに大きく掲げられた「マスクの着用、体温の計測、手指の消毒」の3点とスタッフが構えている。このいずれも遵守しないと入場できません!として、すべての出展者・来場者に徹底していた。手指の消毒は設置はされていても、任意なところが少なくないなか、スタッフによる確認体制もとる形で運営されていた。
会場内では「大声・飲酒・密接」の禁止事項も入り口に大きく表示し、ソーシャルディスタンスの確保を呼びかけるほか、換気は空調設備により10分に1回稼働していることを明示、搬入出口も開放して常時場内の空気を入れ替えていた。
また、出展者に対して、主催者からすべての出展者に消毒液を1つ提供し、ブース入り口に設置するよう喚起、フェイスシールドもリクエストに応じて必要枚数を用意するなど、無償配布して対応をする。対策が目に見える形で表示されていることが、印象的だ。
リアル開催に踏み切った背景
事務局長の松尾直純さん(リード エグジビション ジャパン株式会社)インタビュー
宝飾業界では、「HKTDC香港ジュエリーショー」など海外の展示会も中止が多い。そんななか、リアル開催に踏み切った理由について、事務局長の松尾直純氏(リード エグジビション ジャパン株式会社)は、2つの側面があると話す。
一つは宝飾業界の経済活性化、もう一つ神戸市への経済効果貢献だ。
「業界発展という意味では、IJKは今年で24回目。継続出展されている企業も多く、一定の売上を上げる商機として準備し出展されます。簡単には中止にはできません。また、神戸市の経済波及効果を算出しレポートしているのですが、1回の開催で20億円の消費があることがわかっています。宿泊代や交通費、飲食代などを含めた数字です」(松尾事務局長)
IJKは、もともと阪神淡路大震災からの復興を目的としてスタートした展示会。真珠生産の集積地ともなっていた地で、地元企業から「東京でも開催していたIJTを神戸でも開催することで、世界中の宝飾業界へ神戸が復活していることをアピールしたい」という想いから立ち上がっている。
なおさら、コロナ禍のいまだからこそリアル開催へという想いがあって、安心安全に実施できる可能性を主催者として追求し、神戸市からの後押しもあって開催の道を拓いた。
ソーシャルバイヤー150名を特別招待
会場を見渡すと、宝石鑑定用のルーペなどで出品されている宝石を覗いている姿や常連のバイヤーと商談をする交渉の姿もあるが、目に見えて存在感があったのが、スマホを片手に動画撮影やチャットをしながら出展者と交渉する来場者だ。個人の販売代理をする”ソーシャルバイヤー”という存在で、若い女性の層も目立つ。
「従来、IJKは海外でも中国、香港、台湾といったアジアからのバイヤーが多く、1社につき1億円から10億円の商売をする超VIPが3000名以上来場する展示会です。ソーシャルバイヤーは、こうした大口の卸のチャネルとは異なりますが、個人向けの販売代理として近年宝飾業界で存在感をましています。
今回は、超VIPのアジアバイヤーはじめ海外からの参加が難しいということや、新しい流れを展示会に取り入れるということもあり、在日ソーシャルバイヤーの皆さん約150名を特別招待しました」(松尾事務局長)
リード社では、特別招待だけでなく、ソーシャルバイヤー向けにライブ販売専用ブースを複数用意。スマートフォンやタブレットでライブ販売をするために提供されたスペースでは、数時間にわたって配信している姿もみられた。
出展者の声
IJKの出展者に、コロナ禍での展示会参加についての想いを聞いた。
赤坂ユニベイス「ソーシャルバイヤーなど新規の出会い目的に」
ソーシャルバイヤー向けに自社ブース内に、ライブ配信できるスペースを用意していたのは東京から出展していた「赤坂ユニベイス」ブース。総合宝飾メーカーとして、製品から工具まで、宝飾関連の商品、加工を取り扱っている。ブースでは、主にあこや真珠をメインに展示していた。
赤坂香津緒さん(取締役統括部長)は、「IJKやTJKには少し前に出展していましたが、ここ数年は伊勢志摩で信頼できる真珠屋さんとの出会いがあって加工が得意な弊社と組み合わせて出展しようと昨年から久しぶりに参加しています。展示会に向けて新作デザインもしますし、ここでしか出会えないひともいる」と新作発表や新規の出会いを目的にする。
ソーシャルバイヤーの活動が活発ということも出展動機の大きな前提となっており、そのために専用スペースを設置。「彼らはスマホ一つで商売をしているので、そのためカメラ写りをよくするライティング、壁面に自社ロゴも入れるなど用意して工夫しています」と話す。
コロナ禍での展示会の再開については「密を避けるなど、この状態が劇的に変わるとは思っていないですし、コロナ禍での展示会がどうなるのか経験をしておきたかった。どんな業種でもリスクを恐れて中止を選択するところも多いとは思います。クラスターや風評被害も含めたリスクがあるなかで開催の決断は非常に素晴らしい。リアルなコミュニケーションはやっぱりうれしいですね」とFace to Faceの場がリアルの価値だと語った。
ケイ・ジー・ケイ・ジュエリー「新規デザインの提案と新しい出会い求めて」
1905年に創業し、世界18カ国に展開するグループ会社である「ケイ・ジー・ケイ・ジュエリー」。鉱山からダイヤモンドを直接買えるライセンスを持ち、自社工場での原石研磨、ジュエリー製造を一貫して行っているため、中間コストがかからずリーズナブルな価格設定と品質管理が特徴だ。
コロナ禍での出展について、上席営業部長のアンキト・ルプダさんは、「毎年出展しているが、ギリギリまで迷っていた」と言う。「ジュエリーはファッションと同じで流行があります。いつも展示会ではリサーチしたデザインを発表する場でもあった。海外の宝飾展は中止も多く、どこにもプレゼンしていない状態が続いていたので、IJKでは変わったデザインのものを提案しにきました」とし、海外からの来場がない分、売上が前年より下がるのは承知でも参加した。「正直、売上ゼロも覚悟してきた。当初の想定よりは上々です」と、会期中の直接売上だけではなく、新規の出会い、取引のきっかけを求めて参加した手応えは感じていた。
アイ・K「参加者動向把握し展開」
伊勢市から参加した真珠加工・卸売・レンタルを手がけるジュエリーメーカーの「アイ・K」。ブースの正面には、半円のボタン型が特徴的なアベパールが並ぶ。アベパールは、中国系バイヤーには爆買いブーム時に人気だった南洋ゴールデンから徐々に人気が移ってきている品種の真珠だ。
代表取締役の河井淳さんは「ソーシャルバイヤーさんも増えてきているので、意識して対応しています。ソーシャルバイヤーさんは、もともとWeChatでテレビツアーなどで販売していたものから派生して、SNSでフォロアーの多いひとがライブ配信するようになったもの。この会場でライブ配信ができなくても、在日のソーシャルバイヤーさんとつながれれば、大阪や京都へ定期に出向いているので、後日ライブ配信もできる。関係性をつくることを意識しています」と参加者傾向と出展目的について話す。
昨年からIJKに出展し、当初はバイヤーさん経由で中国市場に商品を輸出することを検討していたが、ソーシャルバイヤーの存在は展示会で知ったのだという。
会場も対応
「大型展示会の再開は、今後の大型催事事例としても運営ノウハウの共有が重要」と話すのは、山本圭一常務理事((一財)神戸観光局・神戸コンベンションビューロー)だ。IJKの会場となった神戸国際展示場をはじめ、神戸国際会議場など、グローバルMICE都市神戸の中核施設の管理運営を担っている。
神戸市がMICE誘致に力を入れている理由として、「神戸経済の活性化につながること、学会・展示会などひとが集うことでイノベーションの創出につながること、神戸の都市ブランドの向上にも有効であることが挙げられます。また、MICE業界として捉えると、主催者、設営、通訳、お弁当仕出しなど、自動車産業にも似た裾野の広さがある」とMICE開催の意義と、地域経済及び関連業界の発展にとっても重要とし、再開後は安心安全をベースに運営していくと話す。
Face to Faceの変わらぬ価値と進化
コロナ禍で、出展者・来場者も双方に制限がある一方で、Face to Faceの商談を求める声も多い。松尾事務局長は「Face to Faceの信頼性は変わらぬ価値」と話す。宝飾は同じものが一つとしてない世界。輝きやカットなど唯一無二のものは直接確かめる必要がある。高価格帯になればなるほどリアルが求められる。それは、オンラインの課題の一つでもあり、宝飾業界に限らず言えることだとも話す。
リード社は、宝飾以外にも、メガネ、出版、エレクトロニクス、エネルギー、IT、医療・バイオなど様々な業界の国際見本市を定期開催しており、年間34分野267本を予定している主催者だ。
コロナ禍での展示会での商談のあり方を模索しているなか、今回のIJKでは、変わらぬ商談の活気とソーシャルバイヤーなどの対応といった新様式での展開を垣間見た展示会だった。