空間に時間の概念をプラス 神戸ウォーターフロント アートプロジェクト シンユニティグループ 株式会社タケナカ 専務取締役 長崎 英樹さん

特集:リアル戦略の空間デザインとアプローチ

空間に時間の概念をプラス

長崎 英樹さん シンユニティグループ 株式会社タケナカ 専務取締役

地域プロモーション – 神戸ウォーターフロント アートプロジェクト

1月14日から神戸ポートタワーにプロジェクションマッピングが投影されている。タワーの改装中の1年半にわたる期間、港町神戸の空間をデザインする。映像演出をてがけたシンユニティグループの長崎英樹さんにプロジェクトの戦略をうかがった。

観光スポットの夜景を見に行こう、写真を撮ろうといってみたら改装中。殺風景な工事現場や仮囲みを前に茫然とした経験はないだろうか。1人ならガックリで済むが、パートナーを連れていたら調査不足を責め立てられ、旅行気分など吹っ飛んでしまうだろう。

その点、神戸に行く人はラッキーだ。来年春まで耐震化など補強工事が行われる神戸ポートタワーでは、18時30分から22時までの毎時0分、30分の計8回(※3月17日以降は19時から計7回)、プロジェクションマッピングが実施されている。神戸ポートタワーのリニューアルを契機に、神戸市と㈱神戸ウォーターフロント開発機構が、2023年春にかけて神戸の街とアートを掛け合わせた『神戸ウォーターフロントアートプロジェクト』として実施されている。

タワーの改装中に、神戸の観光都市としての魅力を下げないためのプロジェクトだったが、1年半しか見られない“レアもの”という価値も生まれている。「周辺のホテルや遊覧船の利用者から音楽も聴こえるようにできないかという要望もあり、音声を同期する技術も模索している」と演出を手がけるシンユニティの長崎英樹さんは語る。

神戸ポートタワーのプロジェクションマッピングは、残念な改装期間をレアな演出を体験できるチャンスに変えた

変化するコンテンツ

第一弾のコンテンツは、気鋭の作家BAKIBAKIが創り出す、伝統とストリートカルチャーの融合を体現した「One and only」。神戸の多様性をアートで表現することをコンセプトに、市民の花アジサイ、フィッシュ・ダンスの鯉、港や街並みなどの神戸ならではのシーンや、縦⾧の投影面を活かした高さ70mの巨大なマネキンの出現など、世界観が次々と変わる映像が映し出される。

期間中4回コンテンツが替わる。季節が変わるたび、美味しい食べ物が変わるたびに、リピーターとして来てもらう。そのために「同じ作品の第2話ではダメ。アニメからドキュメンタリーぐらいに振り幅を大きく。世界観を変えるために毎回異なる作家を採用して、まったく別物を体験してもらう」(長崎さん)

今後のコンテンツには、スマホをかざすとタワー以外の空間にもプロジェクションマッピングの演出が飛び出すARや、見ている人の神戸タワーへの想いを映し出すインタラクティブな機能も追加する構想だ。

ビューポイントが変わる

昨年7月に放映され話題となった、クロス新宿ビジョンの「巨大猫3D」は、錯視を利用して立体感を出すもの。その効果を強く出すには、見る場所(ビューポイント)を狭く限定しなければいけない。そのため他の場所では映像が破綻してしまう。

神戸ポートタワーのプロジェクションマッピングのビューポイントはメリケンパーク内と広く設定し、多くの人に見られるようにしている。しかしビューポイントを狭くして、たとえば10秒ごとに移動することで、錯視の効果が高い映像を体感できるようになる。

また、港と市街地、六甲山系を望むあらゆる角度から見えるタワーの特性を活かして、時間ごとに見える方向を変えることも可能だ。いま長崎さんが考えているのが、神戸NHKのニュースの冒頭に望遠カメラの映像が映る時間に合わせて、カメラ方向の視点でのコンテンツを流す試みだ。

映像のある空間デザインは、つくった時点で完成でなく、時間とともに変化していく。チャレンジをして反応をみながらアジャイルでインタラクティブな空間づくりとなる。

ProLight & ProVisual 展の自社ブースではビューポイントを限定して錯視の効果を最大限にした演出を行った

ProLight & ProVisual 展の自社ブースではビューポイントを限定して錯視の効果を最大限にした演出を行った

ストーリーを考えるきっかけに

おなじく長崎さんが映像演出をてがける、よみうりランド内のフラワーパーク「HANA・BIYORI」では、世界の名画の世界観を取り入れた映像演出を行う。このプロジェクトで多くの絵画と向き合った長崎さんは、「美術館で絵画を見る人は、絵に描かれたストーリーを解釈したり、描かれた人の人生を想像するというトレーニングができている。ぼくも含めて絵画に造詣が深くない人は、綺麗だなとは思うけどそこまで至らない。映像により絵画に命が吹き込まれてリアルな存在になれば、みんなの感性や想像を働かせるきっかけになる」と語る。YouTubeの動画が情報の入口となっている世代が、空間の力に気づくきっかけにもなりそうだ。

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