たとえば、こちらの参加者の方の作品。黒字にショッキングピンクという色使いの映え具合が美しく、極め付けにアクセサリーとなっているピアス・ネックレス・ブレスレットの部分が、玉留め技法を多く用いて立体的になっているところが面白い。こうした自分になかった発想を取り入れ、驚きや共感、教え合いを繰り返しながら参加者も先生も一体となって作業を楽しく進めていけるのも、ワークショップという場の良さだ。
あるいは、こちらの作品のように、アクセサリーや靴下などのワンポイント部を、金色や銀色の光る糸「にしきいと」で飾り付けることによって、効果的なゴージャス感の演出ができるということもわかる。こういった糸の使い方も、実際に目で見て作品に触れることによって良さを知り、「この糸が欲しい」という体験者の購買意欲にも繋がっていく。
また、こちらの作品では左から3番目・4番目のネエサンの洋服デザインに、先ほど触れた花びら型の「レゼーデージーステッチ」が用いられている。他にも、一番左のネエサンのワンピース裾の、ストレートステッチを生かした波々模様や、アウトラインステッチ・サテンステッチなどを生かして塗りつぶされたワンピースの縞模様にタイツや帽子、ランニングステッチを組み合わせて施された格子模様などが作品中に見られ、まさにデザインサンプルの宝庫のような仕上がりとなっている。
そして、気に入ったネエサンが無事に縫い上がったら、続いてチャーム作りの工程に移っていく。上の写真は、レゼーデージーステッチによる花びら模様とサテンステッチによる塗りつぶしが強いデザイン効果を放つ、他の参加者の方によるファッショナブルな作品だ。
まず、ネエサンの周囲を大まかに1cmほどの余裕を持ちつつ、楕円形に切り抜いていく。切り抜いたら、裏布専用の布地に切り抜いたネエサンをあてがい、同じ形の楕円ができるように切り抜いていく。
続いて、ネエサンの周りをざっくりと、最上部にわたをあとから詰める分のスペースを残しながら、ランニングステッチにて点線状にラフに縫い合わせていく。
最後に縫い合わせた布の上部のスペースから、太い楊枝のような木製棒を使って最下部までわたを押し込みながら詰めていき、
チャームをつけるためのサテンリボンを縫い合わせながらわた詰めのために空けていたスペースを縫い切り、好みの形に整えたら、
好きな色の羽素材と合わせたチャームをつけて、いよいよ完成だ。
袋に入れると、まるでキュートな商品のよう。
参加者の方々は、完成したチャームを手に、皆さんとても嬉しそうな、いい表情をしていた。チャームの元となったネエサンは、様々なポーズをしているので、それに合わせたポーズで記念撮影などもしてみる。
写真は拙作ながら、私の作った作品である。
今回のワークショップに参加するまで、刺繍といったものは本当に「高貴なマダムの趣味」と思っていた。しかし、日常に忙殺され自身の狭い世界での趣味と仕事とに明け暮れていた刺繍未経験者の私にとって、今回のワークショップは、新しい世界へと目覚めさせてくれる素晴らしい機会だったように思う。針と糸、そしてその時々の自分好みのネエサン布地さえ目の前にあれば、瞬時に、自由なデザインとささやかで幸福な自己実現の世界へとワープし、没頭することができる。
今回も、2時間あまりのワークショップの時間は、楽しい新発見のめくるめく連続の中で、瞬く間に過ぎていった。
最後に、こんな素敵なイベント『「Quilts1989 / 100ネエサン」特別ワークショップ』をコラボ企画したルシアンの髙木由美子さんと、antenna*の北見裕介さんに企画の意図や効果についてお話を伺った。
髙木由美子さん(ルシアン)
「LECIEN CREATIVE SPACEというのは、普段はこちらでお買い上げいただいた商品を使って、刺繍糸使い放題・道具貸し出し有りで、併設のフリースペースで作業をしていただける、という販売&フリースペース展開による店舗の形を取っています。けれど、それだと元々結構手芸をやられている方や、こちらのことも含め手芸をある程度よく知っている方しか集まらない。顧客層の拡大という意味合いも含めて、普段あまり手芸を行う習慣のない方々や、体験をしたことがない、という方々にも、手芸の楽しさを知ってもらいたい、私たちのことを知ってもらいたい、というのが今回の企画意図ですね」
「普段のフリースペース形式ですと、いらしていただけた方々にとってはひとりで黙々と作業する、という楽しみもあるのでしょうが、ワークショップの場合は、みんなでワイワイ見せながらやる、楽しみながらできるというところがまた違った良さかなと思っています。隣り合った方同士が、その場でちょっとした先生・生徒のような役割を果たしたり、デザイン上でも刺激を与え合ったり。「100ネエサン」は特に、参加者の方々それぞれの味が出て、オリジナリティ豊かな作品が出来上がるんです。そこも交流するのに面白いポイントでした」
北見裕介さん(antenna* 広報)
「今回のコラボレーションは、実は、キュレーションアプリのantenna*が4月からマガジン『暮らしを彩る小物たち』というものをスタートしていたのがきっかけです。手芸など、日常を彩ってくれる、毎日をより良くしてくれるちょっとした小物たちを紹介する特集ですが、そのスピンオフ企画です。antenna*の普段の活動の延長線上として、スマホの画面を超えて、今回のワークショップのようなリアルな体験を実施していくというのは面白いと思っています」
「スマホ時代には、『私だけが知っている』『私だけが行っている』というところに価値を見出す時代なのではないか、そこにヒントがあるのではないかと思っています。
antenna*では、新たな出会いや気づきをユーザーの方に与えることができる機会がつくれたらと思っているんです。情報を楽に早く見つけられる、ということに特化した時代だからこそ、敢えて時間を使う、少人数でもこうした部活のようなコミュニティのような場の提供には価値が生まれると思っています」
今回のワークショップでは、私のような刺繍未経験者と、様々な作品を既に作ってきた経験値豊富な参加者の方々とが混ざり合い、交流しあって、互いに技術や新しいデザインへの発想など「足りないもの」「新しきもの」を埋め合いアイデアを交換し合うことができた。
現在、ルシアンでは462色にも及ぶ単色糸と、140種類に渡るグラデーション色糸、33色のラメ糸の取り扱いがあるという。目の前のネエサンから得られる自由な発想に身を任せ、カラフルで無限大の可能性を持つ糸たちを用いた素敵なデザインを頭に描きながら、ひと針ひと針と縫い進めていく時間に思いを馳せれば、それだけで胸が高鳴る。未経験者の私が、この2時間余りの短時間で、初めてにしてこれだけ刺繍を「楽しい」と思えるほど没頭できたということが、刺繍という世界と、ワークショップの交流が素晴らしかったことの証拠だ。
(レポート文・写真=本田恵理)
*ルシアン髙木さんにお聞きしたワークショップ企画の裏話(拡大版)は、月刊イベントマーケティング(No.37)の「いま気になる!企画の舞台裏」シリーズ#03にて掲載。月刊イベントマーケティング申込みはコチラ。