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資本主義の次の世界を体験できるイベント!? バーニングマンのメカニズムとは
米国ネバダ州の砂漠で、年に1度開催されている「バーニングマン」の世界を居心地よく過ごす10原則について、東京の虎ノ門ヒルズの一角で、日本のお坊さんが身振り手振りパワーポイントを使って解説する姿。こんな光景を、バーニングマン創始者のラリー・ハーベイは予想していただろうか。
バーニングマンのはじまりは、ラリー・ハーべイが失恋をきかっけにビーチで仲間数人と人型の木を燃やして心慰めていたのがスタートという原点を聞いて、なおさらそう感じた。バーニングマンは、それから約30年経って、いまのように世界最大の奇祭、世界一クレイジーな人々が集まるアートフェスと称され、Googleでは社員の参加を推奨していたりしている。9日間の都市と表現されるほど、会期中には滑走路もつくる広大さ、世界中から7万人が集まる大規模なイベントは、どう求心力を維持しているのだろう。
そのバーニングマンに数年前から猛烈に行きたいと模索、日本から今年4回目の参加を果たした友光雅臣さん。天台宗僧侶で、テクノDJ、寺社フェス主催者でもある彼に、バーニングマンの世界観を教えてほしいとお願いしたところ、「人々が望む最先端の非日常がどう作られているのかみていただき、素晴らしい非日常をどんどんつくっていただきたい」と、快く承諾してくれた。帰国から10日後の9月14日に、「バーニングマン報告会」として、イベントの未来をつくる105人というコミュニティの協力のもと、月刊イベントマーケティングは公開インタビューを実施した。
バーニングマンって知ってる?
知らない人のためのバーニングマン「6W2H」
「When―いつやっているのか」
友光雅臣さん(以下、友光さん):例年、8月の最終日曜日から9月の第一月曜日までの期間、開催しています。今年2018年は、8月26日から9月3日(現地時間)でした。
会期は9日間ですが、運営チームは前後3ヶ月以上、設営・撤収期間をとって、髪の毛1本残さずに毎年終えています。
「Where―どこでやっているのか」
友光さん:開催の最寄り都市はネバタ州リノ市。ブラックロック砂漠という場所です。サンフランシスコからは車で7時間、リノからは3時間かかります。
彼らはブラックロック・シティと呼びます。バーニングマンは砂漠のイベントとよく言われますが、厳密に言うと実は砂漠ではなく、湖の底なんです。冬の時期は湖が現れますし、ごく最近も、冬には雪が降り湖の水が凍っていました。バーニングマンの時期には湖は干上がった乾湖の状態となります。
砂漠のサラサラとした砂粒ではなく、湖の底の砂が乾いてパウダー状で細かく、風が吹くとふわ〜っと舞います。ゴーグルのゴムの部分にも入り込んできます。
「Who-誰がやっているのか」
友光さん:そもそも誰がはじめたのかというと、ラリー・ハーベイがつきあっていた女性にフラれた失恋をきかっけに、サンフランシスコの海岸で仲間数人と、人型の木を燃やしたのがスタートでした。1986年でした。毎年恒例になった光景を面白がる仲間もふえ、4年後には人型の木は12mほどの大きさになり、警察官から「ビーチの使用許可がないので、燃やしてはいけない。解散するように」と言われ、行った別の場所がブラックロックシティでした。仲間がブラックロック砂漠でのZone Tripを計画していたのに合わせ、人型のオブジェをブラックロック砂漠で燃やし続けていました。
この活動をグループで継続し、1997年にはLLC(合弁会社)をつくって運営体制をつくります。その後、2013〜14年にNPOとしてバーニングマン運営本部を担うようになりました(LLCはNPOの傘下に)。
成り立ちはともあれ、現在はNPO法人が理念やビジョンをもち、運営しています。そして、グループ、LLC、NPOと体制は変わってもずっと変わらないのは、そこにいる全員が参加者であるというスタイルです。
よく知るイベントのように、運営者、出演者、チケット購入した参加者という構図ではなく、バーニングマンでは全員が運営スタッフが担当してそうな部分までも参加者が行う「全員がブラックロックシティの市民」といったレベルでの参加者主導ぶりがユニークな点です。つまり、消費者も傍観者もいないことが最大の特徴です。
バーニングマンで一番してはいけないことは、観光客になること。観光客はその場にお金以外でなにも貢献していないという考えからで、ここでいう観光客というのは、準備されたものを消費して帰っていくことを指しています。
重視されるのは、バーニングマンに行きたい、みたいという態度ではなく、そこでなにがしたいのか、ということになります。
「Whom―誰が対象なのか」
友光さん:バーニングマンは世界中のトップクリエイター、アーティスト、イノベーターが自発的に集まる場所です。バーニングマンの運営側から、出演料を払って「出演してください、お願いします」というオファーがくる、ブッキングがあるということは、基本的にはありません。バーニングマンに出展しているアーティストやDJブースから依頼がくることはあります。
なかには、数億円をかけて参加していたり、数億円をかけて参加していても名前を表に出さない場合もあります。自発的に、自腹を切って、表現をしにいく場所です。
「What―何をやっているのか?」
友光さん:参加者一人ひとりの過激なまでの自立と自己責任をベースとした、コミュニティ社会の実験をしています。
象徴的なのは、中心にMANと呼ばれる人型のオブジェがあり、最後にこのMANを燃やして終わるというのが恒例です。写真のMANは2014年のもの。
「How―どのようにつくられているのか」
友光さん:どうやって参加するのかというと、大きく3つの参加の仕方があります。
- 個人
- 仲間とキャンプ
- テーマキャンプに参加
加えて、本体のさまざまなボランティアに参加することもできます。ARTテーマに寄り添って、中心部等でARTインスタレーションやイベントを実施してもOKです。ART基金に応募して、制作実費の補助を受けたりチケットを獲得したりする方法もあります。
「How much―いくらかかるのか」
友光さん:チケット代はいくつか種類があります。一番安価なのは低所得者用チケットで190ドル(4000枚)、メインセールでは425ドル、寄付チケットは990ドルまたは1200ドル、駐車チケット80ドルです。チケット代に加え、サバイバルに必要なものとして水や食料、テント、レンタカーなどを全て自分で用意する必要があります。
また、自分が行いたいパフォーマンスやギフティングの内容によってかかる費用は無限大です。
バーニングマンの世界観をつくる10の原則
「無法地帯なの?」
友光さん:よく「法律関係ないんだよね」と言われますが、米国の法律を遵守していますし、バーニングマン会場内は警察もレンジャーも見回っています。暴力はもちろん、ドラッグも、レイプも逮捕されます。でもネイキッドと呼ばれる裸のまま歩き回るひとが女性も男性もいるんですが、裸だけは、なぜか、許されていますね(笑)。
「10の原則って?」
友光さん:Burning Japanサイトより引用したものを自分なりに改変していますが紹介します。
1.どんな者をも受け入れる共同体である
バーニングマンは誰でも参加できます。新しい人を常に歓迎し、リスペクトします。私達のコミュニティに参加するのに入会条件などありません。
友光さん:もし、「観光に来たよ」というひとがいても、「ふざけるな」と追い返すのではなく、「ふざけるな」と言いながら、バーニングマンがどんなところかを説教してくれます。
2.与えることを喜びとする
冷たいビール、小さなアクセサリー、テントを張るのを手伝ったり、楽器を貸してあげたり。誰かに何かを与えるのは楽しいもの。物々交換ではなく、与えることを楽しみましょう。
友光さん:アーティストやクリエイターじゃないからバーニングマンに行けない、ということはなく、缶バッチやアクセサリーをもっていってあげる、笑顔をあげる、という与えることに感謝して楽しむこともバーニングマンの楽しみ方です。
3.お金もうけのことは忘れる
バーニングマンで買えるものは何もありません。ここは「商業」から離れたコミュニティ。スポンサーも広告もありません。お金より大切なモノに気付くためです。
友光さん:バーニングマンのなかではお金を使うことができません。商業主義的なことから離れようという場です。だから、ロゴ付きのバックのロゴ部分にシールを貼って隠したり、ペットボトルのラベルを剥がして飲んだりする小さなお作法があります。
4.他人の力をあてにしない
食べ物や水は元より、移動手段やゴミの始末まで、あなたはバーニングマンの「快適ではない環境」で自分自身の面倒をみなければいけません。
友光さん:現地に行く前に食べ物や飲み物は調達します。バーニングマンのなかでは手に入らないからです。要は、自立のためのルールです。自立したうえで人と助け合うのはよいけれど、最初からあてにしてはいけません。
ちなみに、運営が用意するのは仮設トイレのみ。電気や水、ガスなどのライフラインも自分たちで調達します。
5.本来のあなたを表現する
本当にやりたいことをしたり、なりたい自分になってください。バーニングマンは、どんな表現でも尊重し認めるコミュニティです。同時に、あなたにも他人の表現を尊重することを求めます。
友光さん:本来のあなたを表現するということで印象深いことがあります。クラブを展開している場所があって、DJなので中に入って踊っていたんですが、人種や性別や容姿を超えてキスしているカップルが最前列にいる光景はとても美しいと思いました。
また、表現はさまざまなためカオスなようにみえますが、運営側は安全に楽しんでもらうためのレギュレーションには気を使っています。そのため事前に、どれくらいの音量や光を出すのか、火は使うのか、高さは、と細かい申請が必要です。それは電源や照明器具を貸し出すためではなく(電力も自前)、表現に集中できる環境をつくるため、他のエリアと干渉しないための配慮のためです。
6.隣人と協力する
共同作業からちょっとしたコミュニケーションまで、「協力」はバーニングマンの中心にあります。一人ではできないことをする。これはバーニングマンの魅力のひとつです。
友光さん:積極的に関わることを推奨しています。
7.法に従い、市民としての責任を果たす
バーニングマンは社会のルールを尊重します。法律を順守するのは当然のこと、参加者一人ひとりが社会人としての責任を全うし、自治体・地域コミュニティ・土地をリスペクトし、良好な関係を築くことができるよう努めます。
友光さん:意外に思われますが、バーニングマンの会場内はとても治安がよいです。日本での法律では「〜をしてはいけません」という罰則でたとえば40点以下を落第の世界に対して、こうした10原則というのは「〜っていいよね」という褒賞で80点の場所にしようという世界のため、とても平均点が高くなります。
わざわざ砂漠に、高いチケットを自腹で払って参加しようという人が集まっているので、7万人いても80点を本気で目指そうとします。そうするとコミュニティの平均点でモラルや治安は上がります。
8.あとを残さない
飛ぶ鳥跡を濁さず。環境を守るために、活動の痕跡を一切残さないように気を付けます。最後にきちんと片付けをし、もとより綺麗な場所にしてから帰ります。
友光さん:掃除しないと次回使えなくなってしまいます。全員が、また次回も参加したい、この場を継続したいという気持ちで掃除しますし、運営も終わったあとに時間をかけて場所を戻します。
9.積極的に参加する
素晴らしい体験は、積極的な参加によって得られます。自分が何かを表現したり、誰かのキャンプに参加したり、手伝ったりすれば、あなたはバーニングマンの一員です。
友光さん:みているだけでよい、という行為はとてもダサい行為で、表現をすることもそうだし、他のひとの表現に参加することが大事です。
10.「いま」を全力で生きる
同じ体験は二度と訪れません。あれこれと考えることはいったん止めて、参加して、表現して、体験して…、今この瞬間に全力で集中しましょう。
友光さん:同じ瞬間はないので、できるだけ瞬間瞬間に集中しましょう。
新しい場づくり、コミュニティのあり方、企業・個人との距離感
主催者が自分たちのつくるイベントの世界観を熱く語る姿なら、これまでのインタビューで経験はある。報告会にはイベントづくりを生業とするプランナーもいたとはいえ、バーニングマンの参加者である友光さんが自らのパフォーマンスよりも、イベントの世界観を構成するメカニズムに時間を割いて、こんなに熱心に話す姿は予想外だった。
とりわけ、報告会のなかで友光さんは運営側で定めている「10 の原則」を「これだけは大事だからしっかり」と説明してくれた。いち参加者であるはずの友光さんが、運営の精神を理解して、まるでわが家の家訓のようにすらすらと話すのを聞いて、イベント主催を経験したひとならば、この光景はきっと眩しく映るだろうと感じた。
もとい、バーニングマンでは、主催も、参加者もない。参加者はバーニングマンの世界をつくるひとり。ゆえに自立が求められる。
友光さんが初めてバーニングマンに参加したのは、2015年。それまで、DJ仲間の間でもバーニングマンの認知度はそれほど高くなかったが、バーニングマンの光景に魅了された友光さんは、チケットを申し込むも入手できない年が続き、「行きたい」と言い続け、そんなに行きたいのならばとチケットを譲り受けたという。「Fire Ceremony(護摩行)をしてくれる?」と言われたときに、「『初回なので、最初はみるだけで』と言っていたら参加できなかっただろう」と話す。
いまは「心を開いて自己表現することで本心にぶち当たることを。立場や上下やギブアンドテイク、利害関係なくすべてをさらけ出せる仲間が沢山いること。現実世界に極楽浄土は作れるという確信を確認しに参加している」という。
この公開インタビューだけで、バーニングマンのことを語るのはおこがましいけれど、資本主義の生活から少しずつ社会貢献やエシカル消費、シェアリングエコノミーなど、物の価値や時間の過ごし方の変化が起きているいま、その先の世界、あるいは人類のシンプルな願い「存在価値を感じる」体験をできるのがバーニングマンなのではないだろうか。
そして、このバーニングマンの世界からは、たとえばロゴ掲出がマストなイベントスポンサードのスタイル、用意された非日常を楽しむ従来の参加スタイルとは別の新しい場づくり、コミュニティのあり方、企業・個人との距離感について考えるきっかけをもらった。
(聞き手:月刊イベントマーケティング・樋口陽子)
友光雅臣さんプロフィール
俗名:友光雅臣(ともみつまさおみ)
法名:友光雅臣(ともみつがしん)
1983年生まれ東京生まれ東京育ち。
天台宗僧侶10 年目
一般家庭出身だったが高校時代からの彼女の家業を継ぎ出家。比叡山延暦寺での修行を経て天台宗僧侶に。現在は品川にある常行寺で副住職を務める。
テクノDJ 17年目
大学入学とともにDJを初め、渋谷六本木を中心に活動。汐留パークホテルのラウンジやアメリカのバーニングマン、グアテマラのフェスCosmic Convergenceなどでプレイ。
フェス主催者8年目
2011年より寺社フェス向源を主催し仏教神道日本文化、キリスト教、また現代アート、科学者との対話などあらゆる要素をミックスして「自らの源と向き合う」をテーマに主催。東京のみならず京都でも開催、2018年にはニコニコ超会議やバーニングマンにも出展。
イベントの未来をつくる105人ボードメンバー。
▽日本版も開催!「バーニングジャパン2018」
バーニングマンでは、思想を同じくしたイベントが世界中で開催されており、日本でも「バーニングジャパン2018」が10月6日から8日の3日間、嬬恋牧場/愛妻の鐘で開催される。
https://www.burningjapan.org/2018/07/17/newsite/