本質を理解しIRに取り組む 【IR 関係者に聞く】 栗田 朗さん | 株式会社博報堂 IR/MICE 推進室 担当部長

IR 統合リゾートについてインタビュー博報堂 栗田朗さん

最短で2025年開業か

2016年に12月に議員立法で成立した基本法といわれるいわゆるIR推進法は、議員立法で内閣総理大臣に統合リゾート(IR)を実現するような法整備をするように義務付けたものです。それを受けて今年7月には内閣法でIR実施法案と呼ばれる整備法が成立し、IR設立への環境が整いました。
開業の時期は法律で規定されていませんが、今後のプロセスと準備にかかる時間から推測すると、最短で2025年に最初のIRがオープンするのではと私は考えています。
8月に政府は自治体向けIR説明会を実施し40以上の自治体が参加、9月2日には回答が提出され、大阪、和歌山、長崎が参加を表明。北海道、東京都、横浜、千葉が検討中と報道されています。
ここから、最短で進んだ場合の想定スケジュールになりますが、年明けの通常国会で予算案が提出され、7月の人事発令で、カジノ事業の規制制度立

案や規制遵守の監視をするカジノ管理委員会が組織づくりをされると考えられます。
夏ごろに、カジノ管理委員会の規定を盛り込み、どういうIRをつくるべきかという基本方針を政府が作成し、2020年に各自治体が実施方針を作成し、それにそった事業者の選定入札が行われます。その後2021年に自治体と指定されたIR事業者が共同で、インフラ整備・建築設計、ファイナンス、雇用確保・人材育成などを含んだ詳細な整備計画を政府に提出します。同年度内の2022年3月に政府がもっとも優れた整備計画を提出した自治体と事業者のチーム最大3か所に区域認定をするのが最短だと思います。
その後、1年間ほどのアセスメント、埋設文化財調査をへて2023年着工、2025年開業というのが、私が考える、すべてが上手く言った際の最短スケジ

ュールです。もちろん建設にもう少し時間がかかるという意見もありますし、逆に大阪などは、大阪万博開催前の設立を目指して、事業者選定の1年前倒しを要望しています。

追い越されたが、学ぶメリットも

日本でのIR設置が議論されるようになったのは、2001年に石原東京都知事が掲げたお台場カジノ構想と、同時期の自民党の議員連盟からはじまりました。そこから17年かかっています。
日本のIRはシンガポールを参考にしている部分が多いと言われますが、実はシンガポールのIR検討は日本より遅い2002年から。駐日大使館に日本のIR議論を取材する書記官をおいて猛スピードで研究して2005年に閣議決定。2010年に開業にこぎつけました。
資源がないシンガポールはハブ国家としての地位をIR設置した日本に奪われることに危機感を感じていたのだと思います。カジノ設置のライセンスを与える変わりにMICEや観光施設などの建設を義務付けたIR(統合型リゾート)という言葉もシンガポールが考えたものです。
日本はシンガポールに追い抜かれてしまいましたが、その分シンガポールの事例に学び、それ以上のディスティネーションをつくるチャンスがあると考えられます。

そもそも観光のため

IR開業が観光とMICEにとってどんなビジネスチャンスを生むかという議論がありますが、日本のIRは観光・MICE振興の手段として検討されたという側面があります。
1991年のバブル崩壊以降、“失われた20年”、日本は低成長期に突入。500兆円前後にとどまっている日本のGDPを600兆円にしようという2016年の日本再興戦略の柱に観光立国の実現が盛り込まれています。そのなかでは、現在3.5兆円の外国人消費を15兆円にすると明文化されています。少子高齢化による労働力減少を短期移住、つまりインバウンドで補うという考え方です。これまでも行政は観光産業の振興に力を入れており、訪日外国人数は2012年の836万人から昨年2869万人へと増えているものの、外国人旅行消費額の伸びはそれほど大きくは伸びていません。
そこで期待されているのがIRです。ゲーミングの売上規模はグロス・ゲーミング・レベニュー(GGR)という粗利で語られることが多いのですが、東京でIRをつくればGGRで1兆円以上、日本全体で2〜3兆円と考えられます。これにゲーミング以外のホテルや商業施設の収益をあわせると3〜6兆円となり、経済は急効果も合わせると、15兆円を目標としている外国人消費に大きなインパクトを与える存在になりそうです。

国益=MICE振興に

日本のIR実施法案のユニークなところは、民設民営の事業でありながら、国益に貢献することを義務付けられている点です。そのなかでIR施設には国際会議場や展示場といったMICE関連施設の設置が規定されています。
MICEは、一人あたり消費額の大きさや、一時的な流行に左右されないこと、経済・文化交流への貢献の高さから、日本の観光立国の重要なポイントになっています。
しかし、日本国内のMICE施設の多くは1980〜90年代に整備されたものが多く、長きにわたる経済の停滞や税収の減少で、施設・設備の更新が進んでいません。国際会議の誘致や産業展示会の開催には大規模な会場が必要です。ドイツのフランクフルト見本市会場はじめ2000年代以降も投資を続けた欧州や、急速な経済成長を背景に展示場の新設が進む中国では40万㎡規模の会場もあり、日本の幕張メッセや東京ビッグサイト、インテックス大阪といった展示場、パシフィコ横浜や東京国際フォーラムなどの国際会議場が小さく感じるほどで、国際的な競争では厳しい条件となっています。
少なくとも10万㎡の会場と1万人収容のボールルームといった世界基準の規模とクオリティが必要とされている。そこでIRのなかに建設される大型施設によって、MICEを核としたビジネスツーリズムのディスティネーション・プロパティとなることが期待されます。

依存症対策が進む契機に

IRの中にゲーミングがあり、ギャンブル依存症になる可能性は否定できません。IR実施法案にも入場制限などが盛り込まれていますが、それで十分とは言い切れません。
ギャンブル等の依存症は、ある程度対処法がわかっている物質依存と異なり、プロセス依存と呼ばれるもので、これまで原因の究明・分析といったメカニズムの基礎研究が十分に進んでおらず、科学的・医学的根拠に基づく対応策・治療法などが施されていないのが現状で、仮説にもとづいて対処しています。限りなく依存性をゼロに近づけるために、これから取り組むべき課題は多いでしょう。
しかしゲーミングによる依存症をネガティブに捉えるだけでなく、IRに関する議論のなかで、10月にギャンブル等依存症対策基本法が施工され、既存の公営ギャンブルや射幸性の高い遊戯による依存症についても取り組む地盤ができたことは前向きにとらえることだと思います。
依存症対策のアプローチは、ただギャンブルから遠ざけるのではなく、リスクの理解を促したり、自身をコントロールができる状態で適切に楽しむなど、教育という面も大切だと思います。また、依存症になってしまった場合に社会的劣後せず回復できるような組織づくりも必要だと思います。これまでにコールセンター、家族の会、患者の会などNPOの活動が行われていいますが、法整備によってそのような活動がしやすくなるのでは、と期待しています。
依存症の不安からやみくもにゲーミングを否定するよりも、正しい知識や対処法、相談できる機関などの、必要な情報を得て上手に付き合うことが大切なのだと思います。国、自治体、事業者、プレイヤー自身が、それぞれの立場でできること考えて、開業の日に備えていくことが大切なのだと思います。

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