7月8日、東京観光財団は日本美術刀剣保存協会・刀剣博物館と共催で「TOKYO ユニークベニューショーケースイベント〜TOKYO cool traditions〜」を開催した。
ユニークベニューとは、歴史と伝統のある建物や芸術文化に触れることのできる施設などで、会議やイベント、レセプション等を特別感を演出しながら開催できる会場のこと。東京には、東京都がもつ11の施設に加え、美術館や庭園、神社仏閣、テーマパークなどの施設が揃っており、2019年3月に東京都が発行した「Unique Venues TOKYO」には、刀剣博物館をはじめ57の施設が紹介されている。外観・内観、利用時の写真や簡易平面図、スペースごとに一覧になった面積や対応人数(着席時・立食時)、利用時間、飲食利用の有無などの備考とともに掲載。「Unique Venues TOKYO」の刀剣博物館のページをみると、1F講堂には160㎡の面積で100名(立食)、カフェスペース60名(同)とあった。
実際に行われた「TOKYO ユニークベニューショーケースイベント〜TOKYO cool traditions〜」には、関係者含め、約140名が参加。企業関係者が8割のほか、大使館、会場施設運営者、MICEプランナー、プレスも18メディアと多様な顔ぶれとなった。
刀剣博物館のロケーションは、両国駅から約5〜7分歩いた場所で旧安田庭園内に位置している。旧安田庭園の和風な門をくぐり、庭園を抜けて刀剣博物館がみえると、日本庭園と刀剣というイメージからは、よい意味でギャップのあるモダン建築な外観が現れる。
刀剣博物館の外観。旧安田庭園より
クロークに荷物を預け、1Fホール内に用意された受付を済ませて、オープニングの主催者挨拶が行われる1F講堂に入ると、ガラス張りの半円形ホールでさきほどの旧安田庭園が望める。ガラス面側には庭園との間にテラスがあり、LEDの灯りでほんのりと光るテーブルが夕暮れから夜にかけての風景を演出していた。
1F講堂。160㎡の面積で立食スタイルでは100名に対応する
18時に開会された「TOKYO ユニークベニューショーケースイベント〜TOKYO cool traditions〜」のプログラムは約2時間。スタートから約30分ほど、講堂ステージ上で主催者挨拶や施設挨拶、忍者パフォーマンスが繰り広げられ、立食の料理が振舞われた。その後、参加者は4組に分かれ、刀剣研磨デモンストレーション(1F講堂)、刀剣等の展示ツアー(3F展示コーナー)、和楽器&ジャズセッション(1Fホールアトラクションスペース)、庭園散策(旧安田庭園)のプログラムを堪能した。
刀剣研磨デモンストレーション
刀剣博物館でのユニークベニューとしての活用は初めてで、1F講堂での飲食提供も初と、チャレンジづくしとなった「TOKYO ユニークベニューショーケースイベント〜TOKYO cool traditions〜」。実際に会場側の現場スタッフとして対応した公益財団法人日本美術刀剣保存協会の荒川史人さんは、開催までの背景と初のユニークベニュー提供を通じての課題と期待をこう語る。
「ユニークベニューとしての開放については、3年以上前に東京都観光財団さんからお声がけがありました。きっかけとなったのは刀剣博物館の代々木から両国への移転です。建築家として著名な槇文彦さんによる設計で2018年1月にオープンして新しくなったことを機に、『Unique Venues TOKYO』への掲載を決め、そこから貸出規約や料金などの策定に取り掛かりました。
今回のようなイベントの受入れは初めての試みでしたのでして課題も多く、われわれ約30名ほどの人員をどう対応体制をつくるかといったほか、本来業務として文化財を残していく日本刀を伝えていくために展示品・保管品の保存状況確保を第一とした運用体制などが根本的な方向性としてあります。今回実施した後に、主催者さんのされたいこと、会場として対応できることを改めて整理するようにしたいです」
実際に、演出としての灯り、装飾の草花などは、防虫の観点から虫の誘因性の低いLEDや造花を採用するなど配慮している。また、荒川さんは、公益財団法人の事業制度、文化財の運用と保存に関する法制度の海外と日本の差などは、ユニークベニューを推進するうえでも段階的に検討するべき課題であるとし、それぞれの施設の存在意義に合致したイベント、日本らしいユニークベニューの展開を望む。
主催した東京都観光財団では、大きなトラブルなく開催できたことに安堵しながらも、実施してみて出てきた改善点の洗い出しをし、次の段階に向けて展開したいとしている。また、今回の参加者には、同施設の活用や他のユニークベニュー施設に意識を向けてもらいたい、とも話す。
参加した国際団体のマーケティング担当者は「刀剣博物館は日本人のわたしたちも知らない部分もあったりして新鮮でしたし、海外から日本を選択されたときに期待している体験プログラムだと感じました。予算に合えば活用してみたい」とし、よかった点として「東京の食材を使用した地産地消の立食メニューや、土に還るお皿やFSC認証のお箸の使用など、環境への配慮が素晴らしかった。もっと全面に出してもよいのでは」と評価していた。
ユニークベニューでのイベント開催は、特にロンドンの自然史博物館、パリのルーブル美術館を代表とする欧州の海外先進事例から、日本での実施を推進する動きが活発化している。イベント参加者の満足度アップを見込めるポイントとして位置づけられているユニークベニュー。参加者への“特別な時間”の提供が、会場側や主催側の双方にとってプレゼンスを発揮するためには、改善点のリストアップとその裏にある制度や組織体制の理解をあわせて進めることも重要だ。