主催者は、オフラインイベントの代替としてのオンラインイベントだけではない、リアルもバーチャルも併催した形の新型イベントをプランニングする必要がでてきそうだ。
制約のなかでのイベント開催では、映像が大きな役割を果たしている。
映像は、オフラインのリアルイベント内での表現手段としてだけでなく、オンラインイベントへの参加スタイルが定着しつつあるいま、 新たな参加手段として、外に向けて、いつ、誰に、どのように伝えるか、全体設計から構築しなおす必要がでてきた。
特集「映像がつくるイベントの未来」では各社の配信パッケージプランや新しい表現を追求するメーカーの動きまでをPart 1〜Part 4まので全4回で紹介する。(※Part 4は掲載準備中)
リアルイベントとオンラインイベント
それぞれの特性を生かし、目的によって使い分けができるようになったとも言える。
映像演出の進化が 新たな情報の伝わり方を生む
―― タケナカ/シムディレクト(シンユニティグループ)
トップクリエイターが制作した映像コンテンツを最先端の映像・音響機器を運用して、会場に非日常空間をつくりだしてきたイベントの映像会社。コロナ禍でイベントが中止になっているなか、その高いビジュアル技術をどう活かしているのだろうか。
代替ではなく新しい価値を
プロジェクションマッピングやライブイベント、展示会などで映像を用いた空間づくりをてがけるシンユニティグループは、バーチャルイベントのトータルソリューションを開発。
「リアルをバーチャルに “代わり”ではない新たな体感・体験価値」をモットーに掲げて、同社独自の高品質で細部にまでこだわる映像制作、VR、バーチャルキャラクター、インタラクティブ、プログラミング、配信、イベント運営のノウハウを駆使して、人とつながるさまざまな空間をつくりだしている。
同グループのバーチャル・エクスペリエンス専用ページでは、VR、AR、仮想空間・空間拡張技術をまとめた表現をXR(クロスリアリティ)として、現実の舞台空間、人物、音響、観客に加えて、バーチャル表現である3D空間、バーチャルキャラクター、イマーシブオーディオ、バーチャル観客を組合せて、リアルと現実が交差する空間づくりを紹介している。
たとえばバーチャル展示会(写真1)は、仮想空間のなかを3Dゲームのように自由に行き来し、振り返ると後ろの景色がみえる。立体映像で展示ブースを設置、近づくと立体映像の説明員がでてきて説明したり、実際の説明員とつないでリアルタイムで話ができる機能なども今後のアイテムとして加える予定だ。
※各ソリューションの映像は以下のYoutubeで観る事ができる。
㈱シムディレクト代表取締役の長崎英樹さんは、「プレゼンボタンを押したら画面に動画が流れる、商品概要のボタンを押すとスペックが表示される、というのは普通のウェブサイトと同じ。オンライン展示会とは言えるかもしれないが、バーチャルではない。私たちに求められているのは、リアルのイベントに近い、もしくはそれを超える体験を提供し、企業と人との新しい接点をつくること」と語る。
商品説明の動画をプロのプレゼンテーションへと昇華させるバーチャルスタジオ、BACKSTAGEでも注目を集めたJoinVisual(写真2)はアナライザー自体が映像演出にもなるインタラクティブ参加システム。
参加体験を向上させるソリューションをどう組み合せて、活用して、バーチャルイベントを設計するかはイベントプランナーの腕の見せどころだ。
表彰式、学会、展示会、ライブ、eSports、さまざまなタイプの催事があるが、最適なツールの組合せはそれぞれに違いそうだ。 イベントができないから仕方なくオンライン開催で代替するという現状から、オンラインとリアルの良いところを融合したハイブリッドイベントがアフターコロナの新しいスタンダードになりそうだ。
解像度とリアリティは比例する
「ほとんどのイベントは中止や延期になっているなか、バーチャルイベントのニーズは高まっています」と長崎さんは言う。
同社への問合せの多くは、映像をウェブで流すというシンプルなことではなく、リアルのイベントと同じような、あるいはそれ以上のコミュニケーションづくりだという。
1対多の一方通行の情報伝達はウェビナーで実現できるが、多対多や双方のコミュニケーションをオンラインで実現するには、人間がリアルの場で無意識に行っている、多くの情報を集めそれに対して複雑な処理を高速で行わなければいけない。
同社が得意とするクオリティの高いビジュアル演出とインタラクティブ技術があってはじめて、情報を得たり、体験・体感を共有したり、コンテンツを楽しんだり、良質なコミュニケーションの場を創出することができる。
エンターテインメントの体験価値向上においても、ディテールまで表現する高精細画像、イマーシブサウンドによる臨場感といった、リアリティを出す映像・音響演出が絶対条件となる。
これまでイベントの映像・音響演出の品質向上は、イベントに適した会場のなかで高機能な機材と高い能力のオペレーターを集約させて、最高の環境をつくる方向で進んできた。
しかし、コロナ禍の収束後に、オンラインへの移行やイベントのハイブリッド化が進むと、ユーザー側の環境でも品質の高いバーチャル体験ができるように、誰もがもつ汎用的な機材(PCやヘッドホン)などで、高性能な機材での演出に近い品質を擬似的に再現する技術や演出手法が求められそうだ。
たとえば2チャンネルのステレオヘッドフォンで10.1チャンネルのイマーシブオーディオのように聞かせるような技術だ。
「5Gが普及すれば高品質な映像を一人ひとりのデバイスに提供できるでしょう。当社はオンラインの会社へ舵を切ろうとしています」(長崎さん)。
現在、同社のソリューションを紹介するXR展示会を企画中。バーチャルマッピングなどエンタメ系の楽しいコンテンツも盛り込まれそうだ。
人と会う。直接話をする。
その手法にバーチャルという選択肢が加わることで、イベントのあり方が大きく変わる。いまはその過渡期にいるようだ。
【特集】映像がつくるイベントの未来