イベントプランナーの履歴書 形のないものをカタチにする仕事 セールスフォース・ドットコム 田中裕一さん
- 2016/4/25
- Interview
形のないものをカタチにする仕事
田中裕一さん
株式会社セールスフォース・ドットコム
マーケティング本部イベントマネジメントディレクター
クラウド型顧客管理(CRM)最大手のセールスフォース・ドッ トコムで、ユニークで先鋭的な「Salesforce World Tour Tokyo」などさまざまなイベントの運営を手がけるイベント マネジメント ディレクター田中裕一さんに話をうかがった。
——クラウドによる業務のオンライン化を推進するセールスフォース・ドットコムが、オフラインのイベントを盛んに開催しているのはなぜですか
田中 クラウドサービスを提供する弊社にとって、ユーザーコミュニティへ最新のサービス情報を提供したり、サービス利用に関するフィードバックを得ることはとても大切なことです。その機会としてフェイストゥフェイスによるコミュニケーションが効果的と考えており、弊社は創業以来さまざまイベントを実施。サンフランシスコで開催しているDreamforceは、ソフトウェア会社が主催する世界最大のプライベートイベントとして17万人がイベントに参加登録し、街全体がコンベンション会場となりました。
——グローバル企業の御社では、本国である米国が各国のイベントをコントロールしているのですか
田中 弊社には専門職としてイベントマネージャーがいます。米国本社だけではなく世界中にイベント担当者がいます。年に1回以上はグローバルイベントサミットがあり、本社のVP(ヴァイスプレジデント)がガイドラインやビジョンを発表し、各国のベストプラクティスを共有します。
ローカル・イベントの会場環境やディスプレイなどは各国の判断に委ねられていて、自由度は非常に高いと感じています。その中でオーディエンスにどう伝えるかというのが各国のイベントマネージャーの重要な役割になっています。
——自社のCRMを利用してイベントの効果測定を実施されていますか
田中 イベントには大きな投資をともないますので、PRやビジネス効果を分析するアナリストとも連携しながらイベントの効果を測っています。イベント開催前、中とその終了後のフォローアップでビジネスにインパクトを与えられるかが重要です。ライブの視聴者数をトラッキングするのはもちろん、ソーシャル上のブランドメーションでどれくらいリーチしたか、ニュースを見た視聴者がSNSでどれくらい拡散したか。そういった要素もトラッキングしています。イベントを実施するだけでなく、イベントで発表したストーリーを拡散するところまで考えるのがマーケティング部にいるイベントマネージャーの役割だと思います。
——イベントマネージャーにはどのような人が向いているのでしょうか
田中 人とコミュニケーションを取ることが好きで、その能力が高いことは必須です。あとはストーリーの企画力やプロジェクトマネージメント力。立ち上げからクローズまで、マーケットのトレンドを感じながら、実行するやり抜く力が重要でしょう。
——昨年末の「Salesforce World Tour Tokyo2015」は各所で話題となっています
田中 両国国技館、ザ・プリンスパークタワー東京、虎ノ門ヒルズフォーラムという3か所で開催しました。お客様をイメージしながら、次の成長を考えたとき、多くのゲストや社員とメッセージや空気感を共有したい。そこで、特に日本の文化の象徴である両国国技館というのはベストな開催場所であると考えました。
——ゲストに著名人の方を招いたことでも話題になりました
田中 弊社のイベントでとても大切なメッセージは、お客様の事例と社会貢献活動の紹介です。基調講演では、NTTコミュニケーションズ、NPO 法人 CANVAS、、和歌山県 白浜町長、テスラモーターズからゲストをお招きしました。さらに今回は、滝川クリステルさん、佐々木 かをりさんをお招きしたパネルディスカッションやiPS細胞研究でノーベル生理学・医学賞を受賞された京都大学山中伸弥教授によるスペシャルなど、参加者の間で、印象に残り会話が生まれていく要素を取り入れました。
自社の技術情報・プロダクトだけの話だと今のお客さんは満足しません。イノベーションや社会貢献活動の話やビジネスモデルなどの要素も必要なのです。山中教授のようにビジョン、ハードワーク、イノベーションがある方だからこそお客様は刺激を受けますし、新しい発想、アイデアへとつながっていきます。そして、参加者からセールスフォース・ドットコムのブランドのパワーも高まり、電波や口コミなどで広がり、マグネットのように人が集まるイベントとなり、ビジネス効果につながっていくと思います。
——最後に、イベントマネージャーやイベントに関わっている方々にメッセージを
田中 まずひとつは「アイデアを持たなければいけない」ということ。アイデアはひとつだけではなく、常に3つは持っていたいです。時には組み合わせて、時には選択肢としてあることで可能性が広がり、面白いものになります。さらに言えることは「イベントはサービスですので、本番まで形がない」ということ。紙に書いたものを作りあげていき、扉を開けたらはじめてそこに結果がでます。イベントのように、人生におけるこれからの目標や夢も形がありません。イベントディレクターになりたい、論文を書いてみたい、そういった目標があるなら、紙に書くなどして推し進めて実行するのみです。
田中裕一さん、Certified Meeting Professional 米国ネバタ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒業後、日本でのCOMDEX主催, 大手調査会社などを経て2012年にセールスフォース・ドットコムへ。