プロの表現力と演出技術 「光と影と水が感性を刺激する術」-映像特集

座談会 タケナカ長崎英樹専務 モデュレックス海野さん パナソニック赤澤国生さん

特集:映像/照明で体感する新たな世界観-プロに聞く、イベント演出の裏側と未来-

座談会

プロの表現力と演出技術 「光と影と水が感性を刺激する術」

街にイベントが戻って来て、オンラインやxRなどリアルの代替としての映像から、リッチな体験提供や没入感のある演出に映像の力が活用されている。PCの画面という制約からはずれ、空間のなかで様々な手法で躍動する、映像、照明、特殊効果についてそれぞれのプロにうかがった。

イベントや映像演出の原体験

――イベントや映像演出の原体験はどのようなものでしたか?

シンユニティグループ株式会社タケナカ 専務取締役 長崎 英樹 さん

シンユニティグループ
株式会社タケナカ 専務取締役
長崎 英樹 さん

 長崎 子供のころから人に喜んでもらうのが好きで、小学生のころから結婚式の挨拶の担当で、両家を笑わせていました。大学でバンドをやっていたのですが、100 人以上いる大所帯で、コンサートの運営や演出の方を担当して、その当時から広告代理店さんとお付き合いがあってこの道に入りました。

海野 照明の魅力は、形がないところ。物に光があたることではじめて見える、そこに想像力がかきたてられますね。イベントの照明としては、1988 年に来日したピンク・フロイドのコンサート。ムービングライトやレーザーを用いた演出は衝撃でした。そのLIVE 映像は4K リマスターされていまも人気です。

赤澤 ずっと住宅設備・機器の営業担当をしていました。良質な製品をより多くお客様にお届けすることが仕事でしたが、イベントに関わることで、製品が現場でどのように使ってもらっているか、その過程と完成形を知ることできました。また、「こんなことしたい」という抽象的なアイデアを言語化し具現化するプロの凄さを目の当たりにしました。一緒に一つのことを作り上げ涙がでるほど感動したのは社会人になってはじめてのことかもしれません。
――イベントが事業の中心ですか

株式会社モデュレックスク リエイティブディレクター 海野 信二 さん BOSS STORE銀座ファサード、GINZA-6、 ACE HOTEL京都など、ラグジュアリーブ ランド・大型商業施設の照明デザインを 手がける。また、ビジュアルやサウンド、フ レグランスなど統合させた環境デザインを 新たな領域として展開している。

株式会社モデュレックス
ク リエイティブディレクター
海野 信二 さん

海野 舞台照明に憧れていたのですが、職業としては舞台設備の設計に進みました。フリーになってからはJAPAN SHOP やモーターショーの照明や音響のデザインも手がけました。現在所属しているモデュレックスでは、照明器具の製造のほか、公共施設・商業施設の照明設計をやっており、多くのラグジュアリ―ブランドの店舗も手がけています。これからお2 人と一緒にイベント関係のものもできればと思っています。
赤澤 私の担当しているミスト事業は、もともと東京2020 大会などの暑さ対策として開発されたソリューションです。空気の圧力を利用した6 マイクロメートルの極微細なドライ型ミスト「シルキーファインミスト」は、冷却力が高いだけでなく、触れても濡れた感じがしないのが特長です。スモークの代りに空間演出の用途としては、ドバイ万博の日本館に採用され注目を集めました。
長崎 弊社ではBeamPainting の名称で、プロジェクションにいち早く取り組んできました。インタラクティブ要素を加えたり、アニメーションと融合したり、アート作品とのコラボレーションなど新しい可能性を追求しています。表現の幅を広げるために、空間デザインやソリューション提案する企業をグループ傘下におき、映像を中心とした表現の力で社会課題の解決を支援しています。

それぞれの強み活かし 演出の幅を拡げる

――モデュレックスさんの照明の特徴はどういうところでしょうか

パナソニック株式会社 事業開発センターミスト事業推進室 赤澤 国生 さんパナソニック電工株式会社(現:パナソニ ック)に入社後、住宅設備営業に従事。 2017年にミスト事業のマーケティング担 当となる。極微細ミスト「シルキーファイン ミスト」を屋外の暑さ対策や空間演出、生 産現場の加湿など高い空間価値に繋 がるよう、活用の提案を行う。

パナソニック株式会社 
事業開発センターミスト事業推進室
赤澤 国生 さん

海野 弊社オフィスのデザインもしていただいた隈研吾さんとはよくお仕事させていただいています。早稲田稲田大学国際文学館 村上春樹ライブラリーでは、木製ルーパーを浮き上がらせ天井内を感じさせない、書籍が読める快適な環境をつくる、トンネル内の美しい陰影で演出をという繊細な照明設計を実施しました。坂本美雨さんのライブを行った時には、施設内の照明システムとは別に調光卓を持ちこんで演出しました。
――常設の施設の照明とイベントの照明はどう違うのですか
  海野 DALI やDMX(RDM) という512 チャンネルの詳細な照明制御信号に対応する機器が普及してきたため、施設では均等に多くの照明を配置してそれぞれを細かく制御してどんな照明設計にも対応できるようにするのが主流です。
イベントの場合はシーンごとの絵コンテをもらって、それに合わせた照明設計になるので、より個性のある表現ができます。最近では、照明のシミュレーションを動画でつくり、主催者との打合せにつかっています。仕込み図をみても、

早稲田大学国際文学館 村上春樹ライブラリーは設計の隈研吾さんからの「ルーパーを浮き上がらせる、繊細で美しい陰影の演出を」という要望をモデュレックスが実現した

早稲田大学国際文学館 村上春樹ライブラリーは設計の隈研吾さんからの「ルーパーを浮き上がらせる、繊細で美しい陰影の演出を」という要望をモデュレックスが実現した

想像しづらいですからね。

――赤澤さんと長崎さんはコラボレーションをしたことがあるそうですね
長崎 1 月29 日まで実施していた「Art+ + 高知城 ひかりの花図鑑」で、城内の銀杏並木にルノワールが描いた花の絵画の映像とミストで1つのコンテンツをつくりました。
赤澤 頭上に噴霧器を3台設置してミストを下に噴霧しました。プロジェクターも上に3台設置していましたよね。
長崎 はい、通常はミストやスモークなどに投影する場合にはプロジェクターの映像を横方向から投影し、スクリーン代りに使うのですが、今回はミストも映像も同じ上から下に向けたのが新しい挑戦でした。
――映し出される絵はどのようなものになるのですか
長崎 地面にルノワールの絵画が映し出されるのですが、観る方の視点では絵画の断面図になるのですが、ミストが光で照らされ舞っているような幻想的な光景になりました。絵柄とは異なるのですが、使っている色が共通して美しいハーモニーが生まれました。
赤澤 濡れにくいミストなので、中に入って観ている人も多かったですよね。絵画からは想像できない光の演出を楽しんでいただけました。

「A r t + + 高知城 ひかりの花図鑑」ではシンユニティグループの企画・演出でパナソニックの「シルキーファインミスト」を活用した

「A r t + + 高知城 ひかりの花図鑑」ではシンユニティグループの企画・演出でパナソニックの「シルキーファインミスト」を活用した

長崎 想定はできないのですが、どういうコンテンツにしたら、ミストの絵がいい感じになるか、実験を何度も重ねた結果でもあります。
赤澤 屋外での演出に使うのは、ほぼはじめてだったので、風の影響など心配することが多かったです。
長崎 ミストの粒子が小さく軽いことで、揺らぎができて映像が絶え間なく変化し、ずっと観ていられます。風の強さや周囲の明るさによっても違う情景をつくるので、その時、その場ならではの儚さと美しさで、お城に何度も行く意義をつくれました。
海野 ちょうどミストをうまく使えないかなと考えていたところでした。会場中に光の線を縦横無尽に走らせる派手な照明・レーザー演出も、スモークがたけない現場では壁染めといって、スクリーンや壁面に色や模様(ゴボ)を映し出すだけになって魅力が半減してしまいます。ただ防火の観点から、会場の要件でスモークが使えなかったり、食事の場面でも使わないこともあるので、ミストによって選択肢が広がりそうですね。

赤澤 はい。そういうシーンでも使っていただけるのではと期待しています。一方ミストは水の供給が課題になる時があります。タンクで水を供給する方法では長時間での使用は難しい場合もあるので、そのあたりの対処法も考えていきたいですね。

機材の進化とコラボで 想像力の上を行く世界観を

――照明で使われるスモークやミストを映像でも使うようになってきたということですか
長崎 そうですね。LED ビジョンやプロジェクターが高輝度になり低価格化したことで、映像を照明代りに使うなど、映像と照明の垣根がなくなってきました。
海野 LED を使った照明器具が主流になった利点として、照明信号で制御する代りに映像データを使うこともあります。
長崎 使い方を工夫して、置き換えできる部分はありますが、演出ということでは、それぞれの強みをうまく使った方が現状では良さそうですね。空間を使った立体的な表現や陰影などアート性の高い表現は照明が得意とするところですね。
海野 情報量の多いコンテンツの表現は映像の分野ですよね。照明機器の進化でいうと、LED 照明によって色の表現・調光・電力消費などで技術的にいまひと段落していると思っています。LED の後の次世代光源はより高輝度で色域も広く小型化可能な半導体レーザーとなるのでしょうが、演出に利用されるには一層の低価格化と消費電力と冷却方法などの課題を解決することが必要ですね。
長崎 今はだいぶ安価になりましたが、昔はミラーをつかってレーザーをたくさんあるように見せるという技もありましたよね。

ミストと照明の調光・調色、空間音響、アロマを連携させた瞑想用の空間「(MU)ROOM」は、視覚を遮断させて没入させる。パナソニックではマインドフルネス基軸の 宿泊体験をホテル等に提供

ミストと照明の調光・調色、空間音響、アロマを連携させた瞑想用の空間「(MU)ROOM」は、視覚を遮断させて没入させる。パナソニックではマインドフルネス基軸の宿泊体験をホテル等に提供

海野 レーザーは口径が小さく高出力で目に損傷を与える危険があり、演出時には制限があります。それを口径を大きくして安全な光に変換する技術ができているようで、目線より下からもレーザーを打ち上げる事が可能になっています。
赤澤 レーザーや照明が活躍できる範囲が拡がればミストの可能性も大きくなりますね。いま私たちは、「(MU)ROOM」という、ミストと照明の調光・調色、空間音響、アロマを連携させた瞑想用の空間をホテルなどへ提供しました。視覚を遮断させて没入させるという照明演出とは逆のアプローチかもしれませんが。海野 瞑想のための空間は公共空間や個人宅でも需要があります。これなら照明との相性もよさそうですね。長崎 没入させるには視覚以上に音響設計が高い効果を発揮します。プロジェクションマッピングでよく立体音響を使います。その際には映像の情報量を減らして音の方に神経が回るようにします。人間が処理できる情報量には限界があるんでしょうね。
――映像での没入感ということではVR の可能性はいかがでしょうか
長崎 VR やxR の世界はどんどん進化していますが、VR グラスを装着するということが、体感のハードルを上げている気がします。デバイスのさらなる進化が必要ではないかと考えています。
海野 コンサートなどで大型LEDビジョンを多用した演出が一般化し、複数のシースルービジョンを重ねて遠近感を出したりもしてますね。
長崎 ビジョンの大型化と、舞台装飾と映像の融合しやすい湾曲LEDが定着しそうですが、その後がどうなるかですよね。
海野 立体映像ということでホログラムという可能性もあるのでしょうが、なにもないところに映像は投影できないので、透過型スクリーンの代りにスモークやミストが使えたら面白いですね。ミストの形はコントロールできるのですか?
赤澤 噴射角度や湿度調整、空調のコントロールなど閉じた空間ならある程度制御はできます。
海野 なるほど。ミストでないとできないこと、スモークの良いところ、それぞれ特性を活かした使い方がいろいろありそうですね。ミストがないと、照明の強みである” 情感” を出すこと、光源と投影物の間の空間を染められません。照明と映像もそれぞれの良さを引き出し、みんなで協力していきましょう。
赤澤 はい、ミストは照明や映像に付加価値を提供できるので、ぜひご協力お願いします。
長崎 AI による画像生成・映像作成など凄まじいスピードで進化しています。創造性の低い仕事はAI に任せて、私たちが力をあわせて観る人の想像力の上を行くものをつくりたいですね。

登壇者プロフィール

The Future of Event Staging イベント演出の未来 プロの表現力と演出技術 「光と影と水が感性を刺激する術」

左 株式会社モデュレックス クリエイティブディレクター 海野 信二 さん
BOSS STORE銀座ファサード、GINZA-6、ACE HOTEL京都など、ラグジュアリーブランド・大型商業施設の照明デザインを手がける。また、ビジュアルやサウンド、フレグランスなど統合させた環境デザインを新たな領域として展開している。
中 シンユニティグループ 株式会社タケナカ 専務取締役 長崎 英樹 さん サウンドプロダクション、大手広告代理店で多岐に亘るプロデュースを経験。2002年よりタケナカで、イベント制作・映像及び空間演出に携わる。アート作品とプロジェクションマッピングに早くから着手し、岡本太郎氏の太陽の塔、茶圓勝彦氏の砂像にもマッピングを実施した。
関連記事:空間に時間の概念をプラス  特集:リアル戦略の空間デザインとアプローチ -2 xR +インタラクティブ 疑似体験でなく特別な体験を 
右 パナソニック株式会社 事業開発センター ミスト事業推進室 赤澤 国生 さん
パナソニック電工株式会社(現:パナソニック)に入社後、住宅設備営業に従事。2017年にミスト事業のマーケティング担当となる。極微細ミスト「シルキーファインミスト」を屋外の暑さ対策や空間演出、生産現場の加湿など高い空間価値に繋がるよう、活用の提案を行う。

 

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