プロに聞く、イベント演出の裏側と未来-レイ-昭栄美術-disguise-ローランド
- 2023/6/1
- 事例
- #特集_映像照明で体感する新たな世界観
特集:映像/照明で体感する新たな世界観-プロに聞く、イベント演出の裏側と未来-
映像/照明で体感する新たな世界観
-プロに聞く、イベント演出の裏側と未来-
映像や照明、イベント演出の進化はとまらない。イメージ像やメッセージはよりシャープな像を結び、五感を刺激する感覚はより深い世界観へと没入させる。イベント演出のプロは裏側や未来をどう語るのだろうか。
舞台演出 x 映像の色彩
色と映像が最高の舞台セット ㈱レイ
すべてを描かずに、想像力で補完する部分を計算した情報量の少ない映像。堤幸彦演出「巌流島」の映像演出を手がけたレイは、水墨画の手法を3D 映像化して、物語の世界観をつくりあげた。
堤氏の舞台は大型の映像による演出を大胆に取り入れてきた。今回は造作物なし、可動式大型LED ビジョンのみで構成。フルカラーの映像とは真逆の、抑えた“ 和” の表現でアプローチした。水墨画をベースに白と黒の世界観。輪郭を描かずに、微妙な陰影で人物を浮かび上がらせたり、奥行きをつけた。
その細やかな違いが観る人に伝わるように、スタジオに同じセットを組み、配置や映像の修正と検証を何度も繰り返した。白と黒の世界のなかで、血しぶきの赤や島と海の景色など色が差し込まれた時に、強烈なインパクトが生まれる。また照明が役者さんに当たった瞬間、物語が急速に動き出すなど、目に入る色数の違いがテンポも生んだ。
一方、両国国技館で実施した人気スニーカーの1Day イベントでは、会場入口から照明と電飾で赤一色に染め上げた。普段は土俵がある場所にバスケットコートを設置、床面LED や壁面に大型映像で演出。ストリートカルチャーを軸にシューズと音楽とスポーツを繋いだ。 紺井さんは要望以上のスペックの映像機器を現場に持ち込む。「一度いいものを観たら、次からそれを使いたくなる」と映像の高輝度化を図る。最新技術と演出手法の双方でイベントの映像を一段上に引き上げていく。
株式会社レイ ショーテクニカルユニット
左)執行役員 紺井隆宏 さん
右) 本部長 岡留直也 さん
展示会 x 湾曲L E D + 木工造作
LEDと金具開発 映像見上げる非日常 昭栄美術
造作物に組み込んだ時にどう見えるか。逆算して映像機器を選び、設置して、そのためにオリジナルの機材も開発することもある。
FOODEX JAPAN の入場ゲートの天井部に湾曲LEDディスプレイが組み込まれた。パッと見には展示会名のロゴが印刷された木工造作に見えるがときおりロゴが動いたり、キービジュアルのサクラの映像が流れたりする。
壁面にLED ディスプレイを仕込むことは多くても、天井に映像が流れるのは珍しい。ちょっとしたしかけがアイキャッチになる。
入場ゲートが設置されたコンコースは、搬入車両で入れずに、部材は手持ちで持ちこまなければいけない。ただでさえ展示会の施工時間は短く、そのなかで細かい調整が必要な映像設営の作業を円滑にするために、自社開発で曲げ単管と金具をつくった。それにより、さまざまな形状に設置でき、施工時間も短くてすむ。工場で仮組みをして細かい部分まで検証してから現場に搬入した。
湾曲LED パネルのもう1 つの特長が、側面が45 度にカットされていて、直角に組んで継ぎ目なく映像やロゴを流せること。そうした細部までこだわった仕上げが高級感を出し、出展企業のブランディングに貢献する。
LED パネルのピッチは細かいほど高精細になるが、表示する面積が小さくなる。観る人の距離と、施工物のサイズのバランスを考えて、空間全体の最適解を算出してから、映像演出の設計を進めるのが、昭栄美術流のアプローチだ。
株式会社昭栄美術
第2 製作部
映像課 課長代理
片岡勇祐 さん
屋外広告 x マッピング
オペラハウスに2時間で屋外広告を disguise Japan
ロックバンドU2 の映像演出チームがきっかけで発足したdisguise(ディスガイズ)。大型コンサートの演出でLED やプロジェクターの映像を3 次元で対応できるメディアサーバーとアプリを提供している。現在は、映像に加えて音声や照明、舞台装置などを含めたトータルでのショーコントロールが可能になっている。
Vivid Sydney などで、プロジェクションマッピングが投影されるオーストラリアのシドニー・オペラハウスは、公演PR など短期的に広告媒体として利用されることもある。
disguise の機能のうちOmniCal という複数のプロジェクターを組み合わせて広いエリアに高精彩な映像を短時間で実現するソリューションを利用。12 台のプロジェクターの調整をわずか2 時間で終了したという。
また、Las Vegas とAtlanta にある体験型施設「illuminarium(イルミナリウム)」ではサファリや宇宙空間などの擬似体験を多人数に同時に提供する「デジタル・ランドスケープ」の演出を担う。SNS 映えするコンテンツを、頻繁に入れ替えることも可能で、して、効率的な集客につなげている。
disguise Japan 合同会社 社長
三寺 剛史 さん
オンラインイベント x AVミキサー
VRシリーズに6入力のミドルモデル – ローランド
映像・音声の切り替えから合成などの演出、配信、記録まで動画配信やコンテンツ制作に必要な機能を1台に集約した、コンパクトなAV ミキサー『VR-6HD』が発売された。
コロナ禍で急増したオンライン配信のニーズに応えたVR-4HD や、プロ仕様のVR-120HD などのVR シリーズから、6 系統の入力と5つのレイヤー機能を搭載したミドルクラス「VR-6HD」がラインナップに加わった。直感的に操作できるインターフェイス、複雑な操作を省力化できるオートメーション機能、「シーン・メモリー」や「マクロ」、「シーケンサー機能」、「PTZ(パンチルトズーム)カメラ制御」により、複雑な操作を自動化して作業を省力化できるのも特長となっている。
次の時代も、創るのは人か? -95号の表紙
誰もが簡単に利用できるAI「ChatGPT」が話題だ。業務効率向上のソリューションも多数発表され、あちこちのセミナーでその活用法がテーマになっている。
イラストやCG、動画の生成もAI でできる。○○みたいな感じで、××をこう変えてといったコマンドを入力すると、ものの数秒でハイクオリティな作品ができあがる。モデルやアイドルなど出演者と、イラストレーター、映像制作などのクリエイターの両方とも、すでにAI に仕事が取られはじめている。
人工知能は、人がやりたくない労働や単純作業をやってくれるんじゃなかったのか。人間はクリエイティブで楽しい仕事だけやればいいはずでは…。シンギュラリティ前なのに。
本紙のキャッチコピー “Face to Face を科学する” は人と人が会うイベントの意義を再考すること。それは、AI 時代での人の存在意義とはなにかを考えること。そんなことを思いながら、毎号紙面をつくっている。今号はイベントの映像について特集している。映像クリエイターはAI ができないことを目指すのか、共存・役割分担をするのか、それてもすべてをAI に譲るのか。
どこかで見たようなものではなく、良いか悪いかわからないけど、まったく新しいものや価値を生み出すチャレンジをしよう。最短距離で正解を求めるのではなく、瞑想したり、迷走しよう。写真は今号の特集で出会った瞑想室(MU)ROOM。新しい道への扉は、寄り道の最中で見つかるものだ。
(本紙編集部:田中力)