特集:体験価値をあげる イマーシブな演出と ビジネスイベントの映像活用

体験価値をあげる イマーシブな演出と     ビジネスイベントの映像活用

特集:体験価値をあげる イマーシブな演出と ビジネスイベントの映像活用

体験価値あげるイマーシブな演出とビジネスイベントの映像活用

本多 志郎 さん 映像センター  イベント映像事業部 執行役員/事業部長

コンサートやライブ、ビジネスイベントなどが多く開催され、イベント会場に人が戻ってきた。イベント演出の主役を担う映像・照明・音響も、大きな会場に戻ることで、大規模で迫力ある表現ができ、リッチな体験を提供できるようになった。今回の特集は映像演出のプロに、没入感がある映像の作り方、最新映像演出事例、リッチな体験がビジネスイベントに与える影響などについてうかがった。

人の敏感なセンサーを刺激 五感で世界観に引き込む

ラスベガスで10 月に開業した球体型アリーナ「スフィア(Sphere)」。内側外側の両面を120 万個のLED スクリーンで覆い、16 万個以上のスピーカーを設置し、「完全に没入できる映像環境を提供」(公式サイト)している。

映像業界で話題の「Sphere」ラスベガス

映像業界で話題の「Sphere」

 

「あの規模のものを街中に実際につくるという、アメリカのお金の掛け方とエネルギーはすごい。ただし、観る人を映像で包み込んで臨場感を出すという発想自体は昔からあるし、それを活用しているシーンは日本でもある」と、映像センターの本多志朗さんは言う。

以前本多さんが天井・床・壁面をすべてLED パネルで囲んだ映像空間をつくった。臨場感は出せたが直線的なビジョンでは来場者に“ ブロック” を感じさせてしまい、コンテンツを工夫しても、見た人の脳は「偽物」だと認識してしまった。

そこで、LED パネルを1 枚ずつ角度をつけて多角形にして設置するなどの工夫をしていたが、デバイス自体が折り曲げられる曲面LED モジュールが登場し、美しいカーブを出せるようになったことで変化が起きている。人の眼はその細かな部分の精度によって遠近感や立体感を感じとり、包まれた感覚になる。

没入感を高めるもう一つのポイントは“ 音”だ。スフィアではLED パネルの裏側の各所にスピーカーが配置され、音の出る位置を映像に合わせて変える「HOLOPLOT(ホロプロット)」を採用している。音の立体感を出すとともに、スピーカーの存在を隠すことで、その世界にオーディエンスを引き込む。

“ ここからイマーシブ“ でなくずっとワクワク感を提供する

ビジネスカンファレンスでも登壇者ごとに、音声の出す位置を変えて臨場感を出すことは技術的には可能だが、そこに市場があるのか。 外資系企業のイベントを数多く手がけ、海外の企業カンファレンスにも多数参加する本多さんは「欧米のカンファレンスは申し込んだ時点からワクワク感がはじまり、開催地につくと街ぐるみでイベントを盛り上げている」と指摘する。

作品の世界観に没入させるには、音や映像、振動など技術的なアプローチで臨場感を高めるだけでなく、参加する人に「いよいよ、はじまる!」とイベントモードに切り替えてもらうことも効果的だ。

欧米のカンファレンスは参加料が数万円もするといった違いもあるが、参加者のマインドセットを変えることに、どれくらいの価値を見出せるか。

本多さんは現在の状況と、写真が普及した19 世紀後半に絵画の世界で印象派が勃興したことを重ねる。あらたな技術が創作物の価値を変える。イベントも映像もその過渡期にあるようだ。「イベントに従事する日本人に一人でも多くSphere を体験してほしい」と語った。

本多 志郎 さん(写真中央)映像センター イベント映像事業部 執行役員/事業部長

本多 志郎 さん(写真中央)映像センター  イベント映像事業部 執行役員/事業部長


映像・音響・風・香り 技術とこだわりで森へ誘う

盛重 友梨香 さん シンユニティグループ シムディレクト

Harmony in the Forest - DeeplyImmersive 」と題したブースはイベント Japan でも注目を集めた

Harmony in the Forest – DeeplyImmersive 」と題したブースはイベントJapan でも注目を集めた

高い技術とコンテンツ力 ちょうど良さが人を引き込む

プロジェクションマッピング、インタラクティブなど常に最新の映像・音響演出を用いた空間づくりを手がけるシンユニティグループのシムディレクト、SWAG、タケナカ 。テクノロジーだけでなく、アナログな手法も組合せ、記憶に残る体験を創り出し、企業や人の課題を解決するエクスペリエンスプロバイダーとしての役割を果たしている。

イマーシブな空間づくりも他社に先駆けて着手し、イベント会場やアミューズメントパークなどで、来場者をその世界観に引き込むコンテンツと場づくりを行ってきた。現在は企業のオフィスや会議室などビジネス空間をイマーシブな空間に変えることで、企業のブランディングやプロモーション活動に新しい風を吹かそうとしている。

シンユニティグループのイマーシブ空間の特長は、細部へのこだわり。これまで蓄積した経験値を活かし、リアルとデジタルのバランス、演出のディテール、機材や仕掛けを感じさせないコンテンツの工夫、それぞれのちょうどいいところを探しだすことと、インタラクティブコンテンツや19.2ch のイマーシブサウンドなど高い技術を結び付けることで、“ いつのまにか来場者を別世界に誘う” 深い没入感を生み出す。同社では「SOLID WATER」というブランドを立上げ、東南アジアでもイマ―シブ体験を展開している。

Deeply Immersive Experience

11 月28 日から30 日に東京ビッグサイトで開催されたイベントJAPAN2023 では、「Harmony in the Forest – Deeply Immersive 」と題して、展示会場内に森を再現。音楽隊と動物たちと一緒に自然を感じ楽しく過ごす空間ができていた。

音楽隊の奏でるメロディに耳を傾けると、ピッコロの音は、ちゃんと吹いている女性の場所から聞こえている。女性が森の中を歩くと音の出る場所も追随して移動するため、音楽隊と同じ空間にいる感覚に自然となる。翼の生えたペガサスの背中をさするといななき動きだしたり、蝶が舞ったりと、観ているのではなく、森の中に居ることを感じさせられるインタラクティブなしかけがいたるところに隠されている。

触ると花が開き、香りがただよう イマーシブシアター

触ると花が開き、香りがただよう

 

また今回は風と香りも加わり、五感で森の雰囲気を味わえる。ある植物に触れると、花が開くのと同時にフワッと香りが広がる。実はイベントで香りを扱うのはむずかしい。一度発生すると長く滞留するので他の香りと混じってしまう。今回は水分を使わずに香りの粒子だけ噴射する特殊なディフューザーによって、すぐに香りを消すことで、その瞬間だけ森の香りを感じるように制御されている。

ブース中央のキャンプファイヤーは、天井に映像を投影するプロジェクターを隠す目的もあるが、それ以上に森に人が集まる象徴としての役割が強い。また床面の植物は造花ではなく本物を用いるなど、自然を感じさせるための工夫が至るところにこめられている。

映像、イマーシブオーディオ、香り、風、装飾など、複数の要素を同時に設計、コントロールすることで、様々な要素が調和(Harmony)し、コンセプトの世界観に対してより深い没入感を体験できるイマーシブ空間をデザインしている。

イベントやエンターテインメント空間以外にも、多くのシーンにイマーシブ空間を創出し、様々な課題解決とゴールを達成する、シンユニティの新しい挑戦がはじまっている。

盛重 友梨香 さんシンユニティグループ シムディレクト

盛重 友梨香 さん
シンユニティグループ シムディレクト


舞台「西遊記」の世界をつくる 演出家と映像チームの阿吽の呼吸

紺井 隆宏 さん 岡留 直也さん 株式会社レイ ショーテクニカルユニット

背景の大型LED ビジョンでは、西遊記の世界観を絵画で表現した

背景の大型LED ビジョンでは、西遊記の世界観を絵画で表現した

映像を表示する画面から 舞台セットに進化するLED

映像制作・オペレーションを行う株式会社レイ。「ライブ・コンサートをはじめ、展示会や企業イベントなど、さまざまな大規模な映像演出、プロの技術が必要な場がコロナ前の水準に戻りつつある」と同社の紺井隆宏さんは話す。Japan Mobility Show 以降さらに需要は高まっている。

レイでは5 万ルーメンの高輝度プロジェクターの稼働が高い。複数台のブレンディングが不要なため設置時間を短縮できる。プロジェクターはLED と比較して設置場所を選ばないこと、電力消費が少なく会場を選ばないこと、優しい光源でギラギラせず背景と馴染む演出がメリットとなっている。

LED 機器では、湾曲モジュールの需要が高い。展示会では視認距離が近くなり、自然で美しい曲線を構築できることが強み。コンサートでは造作物と異なり、セットチェンジなしで背景やシーンを変えられる。四角四面の “画面”ではなく自由自在に組むことで“ 舞台セット”になっている。

堤演出を具現化する リアルと映像の融合

片岡愛之助さんが孫悟空、小池徹平さんの三蔵法師、松平健さんが牛魔王、その妻・鉄扇公主は中山美穂さんと豪華メンバーが演じる、日本テレビ開局70 年記念舞台『西遊記』。演出は堤幸彦さんが手がけ、映像制作とオペレーションにレイのスタッフ30 人が参画する。

前作の巌流島から映像装置の規模は拡大、使用したLED パネルは2倍以上になった。背景一面をLED にしたほか、可動式のワゴン型LED ビジョンも前面に配置し、デジタルとリアルを融合させた舞台で、西遊記のダイナミックで壮大な物語を紡ぐ。バトルシーンでワゴン型のLED から役者が飛び出してきたり、筋斗雲で空を飛ぶシーンはLED を結合して雲の映像を流すことでスピード感を創出する。

映像制作の面でも前回の墨絵調のモノクロな映像から、カラー精細な描写の絵画調にかわり、高い技術力が必要となった。

堤演出の特長でもある、アクロバティックな殺陣では、100 人近い役者やエキストラの演技をグリーンバックで撮影し、その映像と舞台上のリアルタイムの役者の演技を融合させる。分身の術のシーンでも、事前撮影と複数の役者さんの演技をシンクロさせた。

今回はさらに、リアルタイムのグリーンバック撮影にも挑戦。舞台袖の松平健さんと牛魔王になる前の牛の姿を融合させ、片岡愛之助さんとの掛け合いで、時事ネタや当日の天候などについて触れる。物語の世界から現実に引き戻して笑いを取る。劇場公演ならではの観客とのコミュニケーションは、高い技術で違和感のない映像演出だからこそできるものだ。

堤演出の特長であるバトルシーンでは、LED のワゴンがさまざまなしかけに使われている

堤演出の特長であるバトルシーンでは、LED のワゴンがさまざまなしかけに使われている

 

ほかにも物語の途中で舞台装置の種明かしを混ぜ込むなど、ストーリーへの没入感と現実への引き戻しのバランスが堤ワールド演出の魅力の一つになっている。堤さんは映画やテレビの撮影当日もカット割りを変更することも多い。今回の演出でも舞台稽古に入ってからの映像の変更されることもあり、映像スタッフも最高のものを創り出すために試行錯誤を繰り返した。堤さんとレイのコンビネーションは10 年以上にもわたり、お互いの信頼関係や理解があり、できなそうでできるギリギリのラインでの切磋琢磨がお互いの技術と作品の質を向上させている。

巌流島から約1 年でここまで進化する。進化は公演中も続いており、演者とオペレーションの練度もあがり、演者のアドリブにもオペレーターが対応するようになってきている。芝居好きは同じ公演を何度も観るという。11 月の大阪から、福岡、名古屋を経て1 月6 日から東京明治座での公演がはじまり、演者と演出側の呼吸が合い成熟した西遊記の舞台が楽しみだ。

紺井隆宏 さん 株式会社レイ ショーテクニカルユニット

紺井隆宏 さん 株式会社レイ ショーテクニカルユニット

岡留 直也さん 株式会社レイ ショーテクニカルユニット

岡留 直也さん 株式会社レイ ショーテクニカルユニット


建設・商業施設での活用法をイベントに展開し新しい演出を

本多 将人 さん 西尾レントオール株式会社 ビジュアル営業所

西尾レントオール-さまざまなLED ビジョンの特性を活かして映像活用の幅を拡げる

さまざまなLED ビジョンの特性を活かして映像活用の幅を拡げる

イベント運営の効率化 SDGsを支える長期レンタル

建設機械とイベント商材の総合レンタルの西尾レントオール株式会社。同社のビジュアル営業所では、モニター、プロジェクター、LED ビジョンなど、様々な機材を保有し、多くのイベントの運営をサポートしている。必要な時に必要なだけ使用するレンタル事業自体が、イベントの環境負荷を低減していることに加え、木工による造作の削減、ペーパーレス化も進む。同社では98 インチモニターを多数導入、さまざまな仕様のLED ビジョンをラインナップするなど、映像機器の大型化が市場で進んでおり、映像演出の品質向上だけでなく、設置の利便性、イベント関係者の労働生産性を高めている。

イベント会場向けのサービスでは映像機器についても長期レンタルが進んでおり、イベントを開催するたびにプロが映像機器を設営しなくても済む仕様の開発を進め、映像演出をより容易に利用できる環境を整備している。

西尾レントール―イベントJapan_映像機器だけでなく吊り金具やシステム部材とのデザイン性も重要

映像機器だけでなく吊り金具やシステム部材との
デザイン性も重要

映像機器の周辺が大切タテ型映像を表示する傾向も

西尾レントオールの本多将人さんは、「映像コンテンツが主役ではありますが、意外と皆さんは映像機器の周りを見ている」と考え、設置器具や設置場所のシステム部材によって、映像周りのデザイン性に配慮した提案を行いクライアントのブランディング向上をサポートしている。

イベントJapan に出展した天吊り構造として使用できるオクタリグの利用も有効な手段だという。

最近、需要が増えたのがタテ型映像だ。映像といえば横長のものと考えがちだが、スマートフォンの普及とともにタテ型コンテンツに見慣れた世代が多く、プロモーション用にSNSをターゲットにしたタテ型コンテンツの制作も一般的になっている。屋外広告では、もともとグラフィックボードやサインボードなど縦型のものが多く、それらが映像に移り変わっている過渡期とも考えられる。LED ビジョンの低価格化によって、16:9 の比率だけでなく、よりタテ長のバナーができるのもその変化を加速させている。

また、商業施設や建設現場で普及しているクラウド型のデジタルサイネージをイベントに活用すれば、同時に多数の映像を制御できるし、イベント会期中に一斉にコンテンツを変更したりリアルタイム情報を流し続けることも可能になる。

建設現場や商業施設などさまざまな現場で総合レンタルを展開する西尾レントオールが、そこで活用されている機材や運用手法などをイベントに持ち込み、映像演出の効果をさらに高めていきそうだ。

本多 将人 さん西尾レントオール株式会社  ビジュアル営業所

本多 将人 さん 西尾レントオール株式会社 ビジュアル営業所

 

前回の映像特集

映像/ 照明で体感する新たな世界観テーマに月刊イベントマーケティング94号発行
公式サイト:https://www.event-marketing.co.jp/94go-publish


協賛

イベントレジスト株式会社、西尾レントオール株式会社、株式会社昭栄美術、株式会社JSS、シンユニティグループ シムディディレクト、株式会社レイ

イベントレジスト株式会社

https://eventregist.jp/

イベントレジスト株式会社-広告

 

西尾レントオール

https://www.nishio-rent.co.jp/rentall/

西尾レントオール株式会社 東日本RA事業部 イベント ビジュアル営業所

昭栄美術

https://www.shoei-bijutsu.co.jp/

昭栄美術ーイベントJapan

 

株式会社JSS

https://www.j-ss.jp/

株式会社JSS イベント 警備 東京ビッグサイト

株式会社レイ

公式サイト:https://ev.ray.co.jp/

映像会社 株式会社レイ ショーテクニカルユニット  紺井 隆宏 さん  岡留 直也さん   株式会社レイ ショーテクニカルユニット

 

 

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