株式会社JSS 菊地唯さんが語る、警備の裏側とコミュニケーションの重要性 守るだけじゃない、支える仕事
- 2024/10/10
- Interview
イベント業界実務者にスポットをあてる“キーパーソン” インタビュー
守るだけじゃない、支える仕事-警備の真価
株式会社JSS 菊地唯さんが語る、警備の裏側とコミュニケーションの重要性
株式会社JSS 千葉支社 課長 菊地唯さん
運命?で警備業界に飛び込む
―― まず、菊地さんが警備業界、具体的にはJSSに入社されたきっかけを教えてください
菊地さん 本当にたまたまのできごとでした。求人サイトを見て、一番上に出てきたのがJSSだったんですよ。それが東京マラソンのために上野支社で増員をしているタイミングで、運命だったのかもしれませんね。警備業界には特に興味がなかったんですが、何もしないわけにもいかないし、応募してみようかなという軽い気持ちで始めました。
―― なるほど、最初は偶然のきっかけだったのですね。
菊地さん そうです。面接を受けて研修を受けることになったんですが、正直、最初は住民票や健康診断の提出が面倒だなと思いました。それでも「仕方ないか」と思いながら入社しました。その後、上野支社で退職や異動があって、社員の枠が空いたんです。「どうだ?」と声をかけられて、これも縁かなと軽い気持ちで「やってみるか」と引き受けました。それが現在のポジションに繋がっています。
イベント警備のしごと
―― 現在のポジションについてですが、課長職としては「警備隊長」のような役割を担っていらっしゃるんですか?
菊地さん 基本的には私は営業がメインですが、社長命令で警備隊長もやっています。東京ビッグサイトのような大規模なイベントでは、千葉支社はアクセスが良い場所にあるので、多くの警備員が多く派遣されています。責任者を立てる必要があるのですが、本社のイベント部署も人手が限られているますので、私が隊長として現場をまとめます。
―― 営業の仕事をしながら現場の隊長も務めているのですね。
菊地さん 先日もイベントが重なったので、警備を受け持ちました。6名ほどの小規模なチームですが、その際は私が現場の責任者として対応しています。また、千葉には警備の組合があり、花火大会のような大規模イベントの警備も担当しています。ちょうど先週は長岡の花火大会の警備を任されていました。
――「千葉支社」と言いつつも、千葉の仕事だけをやっているわけではなく、いろいろなところで仕事をされているのですね。
菊地さん はい、前回のジャパンモビリティショーの警備隊長も務めています。自分は関係ないだろうと思っていて、誰が隊長をやるのかなと考えていたら、いきなり「隊長やれ」と言われて(笑)。
―― ジャパンモビリティショーといえば、日本最大級のイベントです
菊地さん 私ども株式会社JSSでは、各支社の配置を担当する責任者が隊長をやるという暗黙の了解があります。それが自分の昇進にも繋がるという面もありますが、わたしは営業だから関係ないだろうと思ってたら、まさか自分がやることになるとは(笑)。ただ、いきなり営業職の人がやるというよりは、現場での仕事をしていて、資格も持っているということで選ばれたのだと思います。
―― 営業の仕事をしつつ、現場警備も担当されるのは大変じゃないですか?
菊地さん 大変な部分もありますが、営業としても警備の経験が役立つこともありますし、そういう意味ではプラスだと思います。だから、それを活かして仕事をしています。
――コロナが明けてから、イベントが増え、それによって警備会社さんも増えているようですね。
菊地さん 昔は東京ビッグサイトの警備と言えば4社ぐらいしかやっていませんでした。
しかし、最近は幕張メッセも東京ビッグサイトにも、いろいろな警備会社が参入してきて、「この会社は初めて見るな」ということも増えています。幕張メッセについては、JSSその流れに乗って、警備の仕事が増えています。先週は1週間の仕事がありましたし、今月も3日間のイベントや1日スポットの仕事も担当させていただいています。
――以前は8月に展示場でイベントは少なかったですよね
菊地さん 主催者の方も「スペースが足りないから、しかたなく8月に開催」という感じだったのかもしれませんが、やってみたら人が集まるので、「じゃあ8月もやろうか」という話になっているようです。これから東京ビッグサイトも改修工事があるので、また変わってくるかもしれませんね。
暑さとのたたかい
―― 8月だけでなく、近年は暑い時期が長いですが、警備のお仕事は大変じゃないですか?
菊地さん そうですね、一番印象に残っているのは、イベント警備での熱中症の発生ですね。暑さで体調が悪くなってしまう人が多くでました。そのため通常の警備配置で問題ないはずのイベントでも、炎天下の状況下で追加の警備員を配置するようになりました。
―― 暑さ対策で人員を増やすにも、費用が掛かるので、主催者さんの理解が必要ですよね
菊地さん 今ではしっかりと対策を講じていて、全員に水筒を持たせるなどの準備をしているんですが、以前はそこまで徹底していませんでした。その経験が今では、熱中症対策に対する意識をより高めるきっかけになっています。
―― 早めの熱中症対策にはどういう手段が有効でしょうか
菊地さん 脈拍や汗の量、手足のしびれなどの症状が出たら、すぐに休むように指導しています。また、無線機を持たせていて、例えば無線の応答が鈍かったり、確認が甘くなったりしたら、すぐに確認に行きます。先日、長岡のイベントでも、無線での話し方が少しおかしいな、と思われる警備員がいて、遊撃要員の警備員を派遣して確認したら、やはり熱中症の兆候がでていました。その人はすぐに休ませて、代わりに他の警備員を配置しました。
―― 周囲が気づいてあげることが重要なのですね
菊地さん 大規模イベントでは複数の警備会社が現場にいることも多く、他の会社に所属する方でも、私たちがその様子をみて、休ませるように促すこともあります。警備員だけでなく、関係者全体で幅広くカバーすることが大切だと思います。
―― イベント協力会社が1つのチームとなって
菊地さん とくに現場では、自分が気づかないことも多いので、周りが気づいて声をかけてあげることが大切です。私自身も現場で張り切りすぎて鼻血が出たり、足がつったりしたことがあります(笑)。責任感から「自分は大丈夫だ」と無理をしてしまうことがありますので、そんな時は周りが気づいてくれることが多いですね。
トラブルを未然に防ぐ、制服と柔軟な対応
―― 警備といえば、困った人の乱入があったり、暴力的な行動を止めたりといったこともあると思うのですが、そういったトラブルはどのくらい起きるのでしょうか?
菊地さん イベントに関しては、入口でパスのチェックをするので、そもそも悪意のある人やパスを持っていない人はそこで弾かれることが多いです。私自身は暴力的なトラブルに巻き込まれたことはあまりありませんが、花火大会などでは酔っぱらった方が問題を起こすこともあります。
――もめごとや盗難などのトラブルを未然に防ぐための工夫や、言うことを聞いてもらうための対応についてお聞かせいただけますか?
菊地さん 制服の効果は絶大ですね。私たちは、見た目の印象を非常に大事にしていて、ビシっとした制服の着こなしを徹底的に指導しています。JSSの制服を着用した警備員を警察官と見間違えるという効果があるかもしれません。それでいて、高圧的にならず、優しく声をかけるようにしています。こちらの態度によっては、相手から反発されてしまうこともあり、言葉遣いには注意していますね。また、必ず2人以上で対応するようにしています。
―― チームでの対応が重要なのですね。ちなみに、警備員の方は大柄な方や強い方が多いんですか?
菊地さん JSSでは要人の身辺警護がメインでないのですが、やはり体力がある方が多いです。自転車で現場に通勤している方や、シニアの方でも鍛えている方が多いです。以前、体育会系の大学生が友達を引き連れてもめごとになりそうな状況でしたが、同じ年代の方が優しく声をかけることでトラブルを防げることが多いです。フランクに「どうしたの?」と親しみやすい雰囲気で話しかけることで、相手もリラックスして話してくれることが多いです。
国歌試験の講師も務める
―― 警備業の講師をされているということですが、どういう資格なんでしょうか?
菊地さん 警備員として働くためにはいくつかの資格が必要です。交通警備の2級や施設警備の2級などがあります。これらの資格を持っていないと、特定の現場にはつけません。そのため、資格を取得するための試験があり、車の免許のように実技と学科の試験があります。2日間の特別講習を受けて、最後に終了試験を行うという流れです。
―― 資格を持っている警備員しかつけない現場もあるんですね。
菊地さん そうです。例えば、私たちの会社では高速道路の警備をしていますが、そこでは交通警備の2級を持っていないと働けません。特定の道路では、警察から「この資格を持っている警備員しか配置できません」と指定されている場所もあります。屋外イベントやお祭りの事故防止や円滑な運営を行うには、雑踏警備の2級が必要となります。
―― 菊地さんは講師として教える側でもあるのですね
菊地さん はい。試験を受けて合格すれば、講師として活動できるようになります。
――現役の警備員の方が講師をされることが多いのですか
菊地さん はい。講師としての活動だけでは年に20日ほどしか仕事がないので、講師は現職の警備会社に所属している人が多く、資格を取得して講師の仕事をしながら、普段は警備の仕事をしています。警備会社としても社内に講師がいないと、2級の枠を取ることが難しくなるので、大きな会社では講師を抱えていることが多いです。
―― 警備業界における国家試験の役割については、どうお考えですか?
菊地さん 国家試験によってリーダーとしての役割を担う警備員が育ちます。私たちも講習で「資格を持っている以上、現場のリーダーとして責任を持たなければならない」と教えています。さらに上級の1級になると、計画書の作成や責任も重くなります。1級を持っている警備員は、より高い使命感を持って現場を指揮しています。
――試験ではどのような内容を学ぶのでしょうか?
菊地さん 試験は学科試験と実技試験があります。学科では、例えば交通警備なら道路交通法や旗の振り方など、基本的なルールを学びます。実技では、トラメガ(拡声器)を使って指示を出す方法や、カラーコーンを並べて車両誘導する練習、不審者への対応、応急手当てなど、現場で使う技術を実際に行います。座学と実技の両方で、現場での実務に役立つ内容を学びます。
――試験内容は現場で使う知識や技術が中心なのですね
菊地さん はい、そうです。例えば、交通警備の場合、旗の振り方や道路交通法の知識、事故防止のための対策などが含まれています。法律では旗の振り方が厳密に決まっているわけではありませんが、2級の資格試験では一定の振り方が教えられます。
――運転していると警備員の誘導がわかりにくいこともありますね。
菊地さん 年に1回、再教育として「現任教育」を受ける必要があります。新人教育を受けた後、定期的に現任教育を受けて、誘導の仕方や基本的な動作を再確認します。時間が経つと、警備員それぞれのやり方が出てくるので、再教育で正しい方法に戻すようにしています。
――警備業法や業界のルールに大きな変更や傾向はありますか?
菊地さん 警備業法自体はそう頻繁に変わるわけではありませんが、オリンピックにあたり教育時間が短縮されました。警備員の増員が急務だったため、教育時間を短縮して対応したのだと思います。
――教育方法はどうでしょうか
菊地さん eラーニングを使って教育することも可能になってきました。JSSでも研修担当者の監督の下でeラーニングを活用しています。
イベント警備の営業活動は、実績重視
―― 菊地さんは営業も担当されていますが、警備会社の営業というのはどのように行われているのでしょうか?
菊地さん 新規案件に関しては、電話で相談を受けて見積りを出し、条件が合えば契約するという流れです。多くの場合は、前年も担当した案件で「今年もお願いします」という依頼が多いですね。新規のイベントについては、現場で一緒に仕事をした方やそのお知り合い、事務局以外のサポート会社などから引き合いが来ることもあります。多くがイベント警備を担当した際の私たちの働きぶりを見ていただいて、ご依頼をいただくケースです。新規の飛び込み営業よりも、紹介や過去の実績をもとにした営業が中心です。
――なるほど。現場での信頼や実績が次の仕事につながるんですね。
菊地さん そうです。信頼が築けると、紹介も多くなります。特にイベント現場では、そうした繋がりが非常に重要ですね。
もし警備員にならなかったら
―― 警備のお仕事以外で興味を持っている分野や趣味はありますか?
菊地さん 最近ゴルフを始めました。警備業界にはゴルフをやっている人が多いんですよ。先輩方にもゴルファーが多いなか「私はやらなくてもいいかな」と思っていたのですが、会社の研修や大会などの機会があり、はじめました。最近はクラブを買って、練習にも行き、上司や同僚と一緒に楽しんいます。近いうちに警備業協会のゴルフコンペなどに参加しようと思います。千葉支社の隊員だけでコンペをやろうかとも考えています。仲間内でのチームビルディングにもつながると思いますね。
――確かに、チームでの活動としても良さそうですね。では、もし警備業界に入っていなかったら、どんなキャリアを選んでいたと思いますか?
菊地さん もしかしたら、イベント業界で働いていたかもしれませんね。形に残る仕事がしたいと考えてパチンコ台メーカーなどの面接も受けたことがあります。あとはデザイン系の仕事をやってみたかったですね。今の仕事でイベントごとの人員募集ポスターなどを作っています。コミケや花火大会など大型のイベントで多くの人員を集めるために、ポスターで興味をもってもらいます。
きつい、汚い、危険の3Kは過去のこと、楽しい警備のしごと
―― 若い世代やこれから警備業界に入ろうと思っている人に、どのような仕事なのか、どんなことを伝えたいですか?
菊地さん まず「3Kの時代」は終わりました。警備会社もそうです。青年年齢が18歳に引き下げられる以前は、学生の採用が決まっても親御さんが「危険なしごとは…」と反対されて同意を得られないことがときどきありました。いまは18歳でも自分の意思で就職先を決められますが、それでも「警備会社って大丈夫かな?」と不安を感じる方もいます。しかし職場の雰囲気、労働時間や現場の環境など、いずれも改善しています
――3K(きつい、汚い、危険)のイメージをどう解消してきたのでしょうか?
菊地さん ”きつい”に関しては、「うちの会社だけですべてやろう」という意識から協力会社と一緒に仕事をするようになり、人員に余裕をもつようにしました。休憩も回しやすくなり、無理なく働ける環境になりました。
―― 働き方改革やワークライフバランスについては、どのような変化が見られますか?
菊地さん 以前は働けば働くほど稼げる時代で、24時間勤務や2連勤が可能でしたが、今では休憩時間や労働時間の管理が厳しくなっています。特に長時間働きたいという意欲があっても、法律上できなくなりました。
―― 法律で規制されているのですね
菊地さん イベント警備は長時間続くことが多いのですが、作業の引き継ぎやマニュアルの作成が重要になりました。スキルが必要なポジションには新人を配置できないので、その対策も重要です。
―― イベント警備では前後の準備や撤収があるために、どうしても長時間勤務になることが多いですよね。
菊地さん 現実的には12時間勤務が発生することもあります。本来であれば、できるだけ1つのポストを2つに割って交代でやりたいところですが、交通費やその他の費用が倍かかってしまうため、お客様の負担が増えてしまいます。
―― 会場が遠かったりすると交代要員の送迎も必要になります。
菊地さん そのため長時間連続での勤務は避け、休憩を挟んで勤務しています。月単位で労働時間がオーバーしていないように、「このイベントだけ頑張って、その後はゆっくり休んでもらう」という形で調整しています。
――モ チベーションを保つのも大切ですよね。
菊地さん 休憩時間のお弁当も充実していまして、最近では会場にキッチンカーが来て、できたての食事をいただくこともあります。勤務指示を出した時に、「お弁当はありますか?」とよく聞かれます。その日のモチベーションが大きく変わるので、リーダーとしては、お弁当の内容にも気を配るようになりました。連続で勤務する人のためにバリエーションを考えることも大切です。アレルギーの問題もあるので、全員が食べられるものを選ばないといけません。
――3Kの汚いというイメージについてはどうですか?
菊地さん ”汚い”というイメージは、特に土木現場や高速道路の警備に関連しているのではないでしょうか。これらの現場では、泥やホコリにまみれるということもあることはあります。ただ、イベント警備に関しては、そういった汚れとは無縁です。
――”危険”についてはどうでしょうか?
菊地さん イベントも多種多様です。見本市展示会ではテロなどの危険性は低いと考えますが、
―― 警備会社にはリタイヤした人が多く働いているイメージもあります。
菊地さん イベント警備に関していえば、若い人が多く、楽しい現場です。芸能人に会えたり、イベントの裏側を見ることができたりするので、そういうところを楽しんでいる人も多いですね。花火大会では花火も見れたり、泊まりの現場では宿の温泉を楽しみにしていたり、終わった後の打ち上げを楽しみにしている人も多いです。友達同士で働くことも多いんですね。
―― 職業を選ぶ時にやりがいを大切にしている人も多いと思います。
菊地さん 警備の仕事はアルバイトであっても、研修を受けて資格を取らなければできません。それは責任の裏返しだと思います。またイベント会社でもあり、楽しさの中にクリエイティブな仕事だというふうに捉えています。
―― イベントごとに募集をしているんですね。
菊地さん はい。ポスターだけでなく、全ての隊員がスマートフォンで「どの現場に行くか」「どんなイベントがあるか」といった情報を共有できるツールを導入しています。それでイベントの告知をしています。
―― 勤怠管理以外にもコミュニケーションも大切なんですね。
菊地さん そうですね。人員の調整は難しいのですが、普段から同じ現場で一緒に仕事をしているので、自然と協力してくれることが多く、それで現場を回しています。
―― 女性の警備員の比率はどれくらいですか?
菊地さん 現在、千葉支社では約3割が女性です。先週のイベントや今週末のイベントでは、12名中6名が女性警備員です。特に土日働きたいという女性が増えてきています。若い女性がゲートで働いていると、イベント主催者やお客様からも「女性が多くてありがたい」という声をいただくことが多いです。
―― 男性警備員が入れないエリアなどもありますし、女性がいることで安心感が増す場面もありますね。
菊地さん そうですね。特に、女性のお客様が倒れた時やセクシーな衣装のコスプレイヤーがいるイベントでは、女性警備員が必要です。私は現場を編成する際、必ず3割程度の女性警備員を配置するようにしています。イベントによっては、女性警備員の存在が大きな役割を果たすことが多いです。
―― 女性が働きやすい環境を整えることが、警備業界の今後の発展につながるかもしれません
菊地さん そう思います。警備の仕事自体が、ただ守るだけではなく、コミュニケーション能力も重要になってきています。お客様に道案内をしたり、広報的な役割も果たすことが多いです。そういった点で、女性警備員が求められる場面が増えているのも事実です。
―― 警備の仕事は安全・安心を提供するだけではなく、イベントを円滑に進めるための重要な役割を担っているんですね。
菊地さん そうです。例えば、警備員はイベント会場の「顔」として最初にお客様と接します。だからこそ、見た目や言葉遣いにも気をつけています。そういった点で、警備員の役割は非常に重要だと考えています
――言われてみれば、イベントの現場でわからないことは警備員の方に聞いてますね。
菊地さん どちらかというと、やはり警備の仕事は人と話すことが多いですね。圧倒的なコミュニケーション能力を持っている警備員もいます。私もそこそこだと言われますが、もっとすごい「コミュニケーションの化け物」と呼ばれる人もいます。先ほど「警備は顔だ」という話をしましたが、警備が原因でイベントがつまらなかったという印象を与えるのは絶対に避けたいです。
―― 警備員の印象でイベントの評価が左右されることはありますね
菊地さん 例えば、警備員が優しくて、落とし物を見つけてくれたとか、迷子になった子供を案内してくれたとか、割り込みを注意されたけど、その後スムーズに案内してくれてよかったというような印象を持ってもらえるように心掛けています。少しのモヤモヤ感でも、警備のせいでイベントが台無しになったと思われるのは避けたいですね。
―― そういうシチュエーションは多いですもんね。
菊地さん イベントに来て最初に出会うのが警備員です。ここで横柄な態度を取られたら、その時点で「このイベントどうなんだろう」と思われてしまいます。私もプライベートでイベントに行ったときに、「あっち」と無愛想に誘導されたりすると、やはり印象が良くないですよね。警備員は何でも知っている存在として期待されていますから、初めて行く場所でトイレの場所がわからない時などに、自然と警備員に話しかけてしまいます。
――スーパーやお店などでも、警備員が自転車の管理や案内をしているのを見かけますね。これは警備の仕事じゃないのでは?と思うこともありますが。
菊地さん 歩行者や店舗を利用されるお客様の安全確保であったり、快適性を提供する意味もあります。
また、警備員によっては、「貢献したい」という気持ちがあるんだと思います。そして、地域の人々との関わりも含めてプライドを持って仕事をしているんだと思いますね。
警備員の一日
―― 一般的な警備隊員の方がどのように仕事をしているかについて教えてください。
菊地さん 事前に会社から「このようなイベントで、ここに集合してください」というメールが届きます。当日、会場近くで集合したら先輩警備員が「今日はこういう内容で、外だから暑いよ」みたいな簡単なオリエンテーションをしながら現場に向かいます。
―― 現場に行く前にある程度の説明があるのですね。
菊地さん 現地に到着したら着替えて、無線機を腰につけて、トイレの場所を確認して、トイレに行く時は上着を着用するなどの細かいルールもその場で説明されます。だいたい現場に到着してから30分ぐらいの間でこうした準備が行われます。私の場合は、20分前ぐらいに全体朝礼を行い、ルールや車両証の確認などを説明します。
――全体で説明を受けた後はどうなりますか?
菊地さん その後は、1チームごとに担当者がいて、交代制で休憩を回しながら業務を進めます。現場での具体的な役割分担についても、個別に指示が出されます。例えば「このポストでは車両証の確認をしっかり行ってください」といった感じですね。VIPが来る際などには特別な指示が出ることもあります。
―― 細かいところまでしっかりと説明されるんですね。
菊地さん JSSではスマートフォンで出退勤を管理するシステムを導入し、業務内容の確認や出退勤の記録を行います。現場に到着したら「到着」と入力して、休憩時間なども記録します。
警備業界の変化と課題
―― 最近のイベント警備の現場がどう変わってきましたか
菊地さん 主催者の方からブリーフィングの時間も料金をお支払いしていただくようになったことです。10時からイベントが始まるとして、9時半に集合させると、この30分間の給料をどうするかという問題が出てきます。お客様に説明して「10時集合ですが、30分前にブリーフィングを行う必要があります」と理解してもらうケースが増えました。ブリーフィングの重要性を理解してくれる方が増えてきています。
―― 以前は集合したらすぐに業務開始?
菊地さん それでは十分な仕事ができません。なるべく事前にマニュアルを渡して読み込んでもらい、現場にポスターを貼って情報を共有するようにしてはいますが、ブリーフィングは必須です。
――他に展示会などのイベントでの課題はありますか
菊地さん 出展者のほんの一部ですが、喫煙マナーを守らなかったり、協力してくれなかったり、ゴミを放置するなどの問題が出ています。
―― 主催者にとって出展企業はお客さんですが、一緒にイベントをつくりあげる仲間でもありますよね
菊地さん イベントは多くの企業が協力しあって成立するものです。搬出の際も、一度にトラックが集中すると現場が混乱してしまうので、待機所で整理券を配ったり、順番を守ってもらったりと工夫しています。全員がルールを守って、お互いに譲り合わないと事故になったり、時間通りに進まなかったり、罰金が科されることもあります。
―― 搬出の時は忙しそうですね
菊地さん 搬出は会期終了後に一気に作業を行うので、警備人員のポストも多くなります。日本の展示会は搬入・搬出の期間が短いと言われていますが、効率的な運用で何とか対応しています
―― 菊地さんもイベントの警備計画を立てるのでしょうか
菊地さん まず主催者から「ここに警備の人員をつけてほしい」という依頼が来ます。それに対して、私たちが「ここは必要ではないですか?」とか「ここは外せないですよね」といったご相談をしながら予算の兼ね合いも含めて調整します。
―― 安全第一ですが、予算の事情もあるわけですね
菊地さん 事前に現地確認をして「ここはちょっと危ないな」というところがあれば、それを考慮に入れて計画書を作成します。花火大会など大規模イベントになると幹事会社が作成した計画書を基にこちらで最終確認をして現場の警備を進めます。
――展示会の警備計画の場合、計画書にはどのような内容が書かれているのでしょうか
菊地さん 基本的には地図と、どこに何人配置するかといった内容です。緊急時の対応なども含まれています。警備計画書辞退は数ページくらいで、イベント全体の運営マニュアルの中に含まれていることが多いです。
警備業界のテクノロジー
――警備業界でも新しいテクノロジーが入ってきているのでしょうか
菊地さん 勤怠入力や業務マニュアル、イベント告知のツールなどIT系は各警備会社が導入しています。チケットのQRコードの運用や金属探知機の使用などはイベントの入退場時の待ち時間を緩和しています。イベント警備で使うものとしては、トラメガ(拡声器)でしょうか。最近のトラメガは外国語に翻訳してくれる機能が付いていて、それが非常に便利です。
―― 装備品も進化しているのですか
空調服ですね。夏の暑さ対策として、多くの警備会社が導入しています。コンクリートの上での仕事は、地面からの熱もあるので両面焼き状態で汗びっしょりになりますからね(笑)。まだバッテリーの持ちやファンの強さに課題がありますが、これからどんどん改良が進んでいくと思います。誘導灯も今はUSB充電式になってきていて便利ですね。
警備業の価値観とやりがい
―― 警備業としての価値観や誇りについてはどう考えていますか
菊地さん 私は、「ラグビーレガシー」という考え方が好きで、これを警備の仕事にも当てはめています。ラグビーでは、チーム全員が責任を持って動くという精神がありますが、警備も同じで、チーム全体で現場を支えるという意識が大切です。現場に立つ一人ひとりが、社会を守っているという自覚を持って働いてほしいですね。
菊地さん ラグビーには5つのテーマがあって、「情熱」「規律」「結束」「尊重」「規律」という形で、それを仕事にも当てはめて話すことがあります。例えば、礼の際には「まずはパッション(情熱)を持ちましょう」と話しています。これは警備員としての誇りでもありますが、情熱だけでは仕事はできません。例えば、モビリティショーなどの数ある中で私たちが選ばれたのだから、必ず規律を守りましょう、といった具合です。私は、これを「プレシャス(大切なこと)」として伝えています。パッションとプレシャス、この2つを持って仕事をすることが大事なんです。
―― 誇りだけでなく、規律も大切だということですね
菊地さん そうです。ラグビーも、ルールがなければ相手に点数を取られてしまいます。だから、規律も大事ですし、同時に点を取るための情熱も必要です。警備の仕事も同じで、責任と誇りを持って働くことが求められます。
―― 確かに、責任感や誇りがあるからこそ、毎年同じイベントに呼ばれるんですね
菊地さん そうです。長岡の花火もそうですし、他のイベントでも、去年と同じメンバーが来ることが多いです。これは、現場の楽しみもありますし、警備員自身が責任感を持って働いてくれているからだと思います。
―― 地域や社会に与える影響や貢献についてはどう考えていますか
菊地さん 特に地域のイベントやお祭りでは、警備が安全を確保していることが大きいと思います。最近では、予算を削減する傾向にある施設系とは異なり、地方のイベントでは警備を優先して予算を確保するケースが増えています。
―― イベントの主催者側も、事故を防ぎたいという意識が強くなっているんですね
菊地さん 特に大規模なイベントでは、警備の人数を増やして事故を未然に防ごうという意識が高まっています。今後、さらに暑くなれば、警備員の負担が増えるため、2ポストに4名配置するなど、体制を強化する必要が出てくると思います。
―― これからの警備業界に期待することや、こうなってほしいという展望についてお聞かせください
菊地さん 警備業界全体で人手不足です。そこで、外国人の採用や、若い世代の参入が必要だと考えています。今、警備がいないとイベントができない、イベントができないと売上が立たない、という悪循環に陥ってしまう可能性があります。
――確かに、若い世代にもっと警備の仕事を知ってもらう必要がありますね
菊地さん そうですね。警備は、まだ若い世代には「おじさんの仕事」というイメージが強いかもしれませんが、実際には若い人も増えてきています。例えば、千葉支社でも若い警備員が最近増えています。警備を選択肢の一つとして考えてもらいたいです。
――若い世代の参入が、今後の警備業界の活性化につながると
菊地さん はい。警備の仕事はAIにはまだ代替されにくい分野です。物理的な対応が必要な仕事なので、人の力が必要です。
――責任感とコミュニケーション能力が必要なぶん、やりがいのある、誇りがもてるお仕事ですね。若い方にもどんどん警備業界に来て欲しいですね。今日は色々とお話をお聞かせいただき、ありがとうございました
株式会社JSS 公式サイト
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株式会社JSS 代表取締役会長 倭文浩樹氏のインタビュー記事
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