リアル空間の価値 世界観と セレンディピティ

オンラインのコミュニケーションにも慣れたいま、リアルな感覚や人から人に伝わる熱量、一体感といったココロの動きに、わたしたちはより敏感になった。それは詰まるところ、オンラインの利便性以上に求めるものがリアルにはあり、リアルが果たすべき役割を因数分解して再設計し直す機会ということなのだと思う。

その空間で過ごす時間のココロ価値を上げる

大髙 啓二さん

VMD+五感空間ディレクター
フォーハーツ株式会社
代表取締役/CEO

VMD+五感空間ディレクターとして、ロフトやガリバー(現IDOM)など幅広いジャンルのVMD導入を手掛け、国内だけでなく、中国でもリアル店舗を持つアパレル、インテリア業界やディベロッパーの経営者向け講演や実績をつくっている大髙啓二さん。6月末には「新小売 リアル店舗戦略」の書籍を出版し、ノウハウを学ぶことができる。今回は売上につなげる仕組みとして、いま求められているVMDの動向や五感空間、リアル空間の価値とは何かを伺った。

――BtoC のリアル店舗でも、BtoB のイベントでも、企業・ブランドが展開するリアル空間の価値が問い直されています。VMD +五感空間ディレクターとして、企業の課題解決をされてきた大髙さんに、現在の空間づくりでの変化について教えていただけますか

大髙 世界的なパンデミックで、EC サイトでの購入は急速に広がりをみせ、SNS のクチコミはメディアとしての影響力が高まり、そしてターゲットの世代の判断基準の変化にも合わせて、企業はオンラインとリアルを加速的につなげ、売上をつくる体制づくりに投資しています。オンラインだけ、リアルだけ、という片方の施策をするだけでは効果は弱い。そういう意味で、リアルを強くして、体験提供やメディア化でファンをつくる要素を盛り込んだ空間づくり、仕組みとしての新しいVMD が求められています。

―― 新しいVMD とは

大髙 VMD は、もともと米国でVisualMarchandising の略でVM として生まれました。オーバーストア現象のなか百貨店が差別化を図るため、人間の五感で83 〜87% を占める視覚効果を使って、売りたい商品を最大限に伝える手法として発展したものです。日本には1970 年代に入ってきて、VMD として表記する造語でアパレル、家具業界やスーパーマーケットなどで導入されています。

僕がいま、提案しているのは、新時代のVMDです。「Value Media Marketing Design」の売場デザイン。リアル店舗はいま価値をつくることが大事で、お客様がシェアしたいと感じるような体験を盛り込んだメディアとして、またリアルの行動をマーケティングデータ化できる場として、総合的にデザインすることが僕のVMD です。

――大髙さんの新しいVMD は視覚効果だけでなく、リアル空間での広い意味でのデザインなのですね

大髙 VMD は、これまでの定義では視覚効果で魅力的に見せる手法ですが、意義としてはずっと変わらず売上を上げることです。

ただ、まだまだディスプレイや陳列手法=VMD という図式の認識も残念ながらあって、それは部分的で、テクニックなんですよね。本来は、売上を上げる仕組みですから、僕が代表をするフォーハーツではVMD +五感で、「見せ方・売り方」だけでなく、「商品企画編集」から、什器や五感デザインを含んだ「空間デザイン」、そしてSNS 発信やイベント空間デザインなどの「プロモーション展開」まで全体を網羅して実施しています(図「ディスプレイや陳列の手法だけではないVMD」参照)。

例えば、昨年6 月に原宿にオープンしたスポーツショップの「OSHMAN’S」(前頁右下の写真)では、1年前からVMD アップデートプロジェクトとして参画しました。空間デザインでは什器のレイアウトは、楽しみながら迷える動線計画にも関係しますし、商品を手に取りやすい高さも細かく計算されています。店舗運営スタッフへのVMD 実地研修も行い、滞在時間を長くする、商品との接触率が上がる、などのポイントを、なるべく維持管理できるよう基準化し、簡単に再現できるようガイドライン制作をしました。VMD は個人の感性や主観によるものとして基準がないという課題もあるんです。また、五感デザインとして、フィッティングルームの香りや店内BGM を時間帯ごとに変化する3部構成のオリジナル音楽制作も実施しています。香りや音は記憶と感情への影響度が高いんです。リピート率や居心地の良さは滞留時間に関係します。

「OSHMAN'S HARAJUKU」 店舗デザイン& VMD 空間演出 プロデュース

「OSHMAN’S HARAJUKU」 店舗デザイン&VMD 空間演出プロデュース

 

近年の傾向で、ブランドの路面店が成功している一方でセレクトショップがオンラインに押されて厳しい状況にあるんです。入店率を上げる、回遊性をよくして滞留時間を長くする、商品を手に取る接触率(アパレルならば試着率)を上げる、という組み合わせは購入率へとつながりますし、商品編集によって購入単価を上げるといったことがVMD の役割。

リアル空間では、その空間で過ごす時間のココロ価値を上げる仕組みが必要で、やれることはまだまだあるのです。

「JAPA N S HO P 2 019」エプソンブース企画 設計デザインにもV M D の仕組みを導入

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フォーハーツ株式会社のWebサイト

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