リアル空間の価値 世界観と セレンディピティ (3)
リアル空間の価値 世界観と セレンディピティ
オンラインのコミュニケーションにも慣れたいま、リアルな感覚や人から人に伝わる熱量、一体感といったココロの動きに、わたしたちはより敏感になった。それは詰まるところ、オンラインの利便性以上に求めるものがリアルにはあり、リアルが果たすべき役割を因数分解して再設計し直す機会ということなのだと思う。
こころの動きをデザインする共感のしかけ
長崎 英樹さん
株式会社タケナカ
(シンユニティグループ)
専務取締役
同じ想いと認識もつ人の 共感と感動を増幅
なぜ、人はイベント会場に足を運ぶのだろうか。
作品や商品に触れて、その良さを自分の五感で確かめたい人がいる。Face to Faceのコミュニケーションや意図せぬモノや人との、偶然の出会いを求める人も多いだろう。
会場で意気投合して友達になったり、商談成立して新たなビジネスが生まれたり、という劇的な出会いもあるが「他の参加者の反応をみる、驚きや感動の瞬間を共有するなど、繊細な共感の伝播こそが、リアルな場に求められているもの」とシンユニティグループの長崎英樹さんは話す。
企業イベントの主催者が本当に聞きたい声は、アンケートやオンライン商談のなかではなく、参加者のカジュアルな会話や、ささいな反応のなかにある。参加者がどう感じたか、何に興味をもったかは、担当者の肌感覚で見つけるものだろう。
エンターテインメントイベントは、コンテンツ対参加者だけではなく、他の参加者の存在も欠かせない。人だかりがあれば、そこに何があるか期待するし、歓声をあげれば一緒に盛り上がる。感動を増幅するのは、想いを同じにした他者との共感、時間・場所の共有だ。
造作やコンテンツだけでなく 人の想いをデザインする
共感は良質なコンテンツだけでなく、空間全体でつくられる。長崎さんはイベントのあちこちに参加者がリアクションしやすいしかけを用意しておく。
たとえば、プロジェクションマッピングの3D 映像のなかに、2D のグラフィックデザイナーが制作したクオリティの高い“決め画”を潜ませる。そのポイントでは多くの人がスマホを掲げて写真を撮る。
また、映像が流れる前のカウント時に立体音響の凄さをわかりやすく伝えることで、観客に“ 音がでる場所 ”を強く意識させ、作品本編での音響演出効果を高める。
映像を綺麗に投影できる白いスクリーンでなく、グレーや黒を選択することもあるのは、映像が映ってないときに「あそこに映像が出るんだろうな」と思わせないため。全体の世界観をつくることが優先だ。
会場のしつらえだけでなく、スタッフの対応や誘導など運営面も含めて、参加者がどう感じるか、どういう体験を提供できるかを長崎さんは常に考える。
「どのタイミングでインパクトを与え、どの場所で心地よさを感じでもらうか。入口から出口まで通る人の、こころの動きをデザインすること。そのストーリーが感動や共感を生む」(長崎さん)。
XR など最新鋭の映像技術で、コロナ禍のオンラインイベントの第一線を走る㈱タケナカが、空間づくりのシンユニティグループとして、コロナ後のハイブリッドイベント市場でも、新たな風を吹かせそうだ。