自由な社風が動かしはじめた 展示会のデータ化による新しい価値-RX Japan 株式会社
- 2024/4/3
- Interview
自由な社風が動かしはじめた 展示会のデータ化による新しい価値
-RX Japan 株式会社 瀬戸 優和さん、高桑 里奈さん、尾熊 愛美さん
前号では、展示会主催企業最大手のRX Japan(株)代表取締役の田中岳史さんに「産業の付加価値を向上させる展示会高度化」についてうかがった。そのなかには、展示会のデータ活用、デジタル化、失敗が許される企業文化といったキーワードが散りばめられていた。今回はその変革の具体的な内容について、現場を担う瀬戸優和さん、高桑里奈さん、尾熊愛美さんに話をきいた。
デジタル化し顧客視点の多様なアプローチを
分厚い出展マニュアルの各種申請フォームに手書きで記入してFAX でやりとりしていた時代も今は昔。出展社専用サイトで、手配関連の事務局との連絡事項だけでなく、出展社・製品検索サイトへの情報登録など、展示会のDX は事務効率化と情報発信力強化の両面で進んでいる。
大量の案内状を郵送したり、電話かけなど、人のチカラで行う強力な集客活動が同社の強みだったが、現在ではメールやSNS、ネット広告などデジタルマーケティングの活用が目立つようになった。
「いまも集客は最重要課題ですし、アナログな手法も引き続き行っています。」とデジタル戦略部の瀬戸優和さんはいう。
一方でデジタルマーケティングの導入は、コストメリットだけでなく「当社が思っていることを繰り返し伝えるプロダクトアウトから、情報の受け手が求める内容を、最適なタイミングと媒体で接触するマーケットインのアプローチへと変わりました」と、NexTech Week のマーケティングを担当する高桑里奈さんはそのメリットを説明する。入社1年目の尾熊愛美さんにとっては「以前はそんな時代があったのですね」という感覚だ。
デジタル化し来場者の多様なニーズに応えることは、数から質への“ 移行” ではなく“ 両立” であり、集客力はさらに向上した。同社が保有する膨大なハウスリストとは別の新しい層への訴求が成功し、来場者層も広がったという。
展示会の会場はマーケデータの宝庫
来場者パスに記載されているQR コードは入退場の際だけでなく、各ブースを訪れた来場者情報を出展社者に提供するサービスに活用している。これまで、来場者情報提供に1~2 週間ほどかかっていたが、DX 化によりリアルタイムで出展社がチェックできるようになった。会期後にすぐフォローアップでき、好評を得ている。
来場者の行動データを活用すれば、会場のどのブースに人が行きやすいかなど、展示会の動線設計を改善できるほか、チェックインした人以外の行動解析も可能になれば、潜在的な需要も含めたさまざまなマーケティングに利用できそうだ。
出展社に説明する展示会の価値や評価について、展示会の来場者数が主な指標となっているが、RX Japan では出展社に商談成果をヒアリングするなどして報告していた。今後は、ブース訪問者数、来場がどれくらいの企業と接触するか、といった新しい指標を活用できる。それにより出展価値を訴求しやすくなるだけでなく、データ提供という価値が展示会の新しいサービスとなるだろう。
RX Japan では、来場者誘致の対象者ごとの来場する可能性など、さまざまな情報を付与する新しいシステムを導入した。DX の推進によりマスマーケティングから、その人の属性や熱意、興味の度合いなどに沿ったCX を提案する、One to One マーケティングを進めている。
リスキリングと失敗許す 新しい企業文化が下地に
このような変化について「社内的に“ 展示会高度化” という一つのスローガンのもと、全社員一丸となって突き進むのではなく、それぞれが自分の考えではじめたことが浸透している。失敗が許される会社の雰囲気のおかげでチャレンジができる」と瀬戸さんは語る。また、コロナ禍の時期に進めていた社員各自リスキリングで、瀬戸さんがデジタルスキルや統計学を学び、それにをみた高桑さんもリスキリングに取り組みマーケティング業務をてがけるようになった。
尾熊さんは「入社してすぐに展示会を任される。他の業種に就職した友人と比べて裁量が大きく、自分のアイデアを仕事で実現できることがこの仕事の魅力。私はいま運営担当ですが、DX の活用やマーケティング視点も取り入れて、より出展社・来場者が活用しやすい会場づくりに取り組んでいきたい」と意欲を見せる。
パートナー企業との連携も、チャレンジの原動力となる。広告代理店や関係企業から数人がオフィス内に常駐しており、一緒に展示会に新しい風を起こそうと、日々相談しながら業務を行っている。
マーケティングの在り方が大きく進化している時期に、経営トップが変わり、新しい“ イズム” が多様性の時代にマッチして、各所に浸透してきている。これからも業界を牽引していくことが期待される同社だか、そのリーダーシップの執り方は、これまでとは違うスタイルになっていきそうだ。
豊富なデータ活用し 展示会の高度化進める
感染症拡大の時期を乗り越えて、2022 年の売上は2019 年の水準に達し、昨年には大きく業績を伸ばし、10 年間の中期計画であげた売上倍増の目標を前倒しに実現できそうです。創業からの成長速度を大きく向上しており、継続的な成長の道筋も見えてきました。しかし、展示会の開催規模を増やして、売上を向上するという繰り返しは、経営者として私が求められているものではないと考えています。
展示会会社の売上は1 小間約9㎡が30 万円から50 万円台で、出展規模の増加に売上が比例しています。この公式は展示会産業黎明の時期から数十年変わっていません。これが果たして、展示会ビジネスのあるべき姿なのかは疑問です。会場では多くの企業と企業および個人が商談をして、企業の発展と産業界の振興につながる。私たちの仕事、提供している価値はそういうものです。
出展料が展示面積の対価でなく、出展者の営業・販促の費用と考えれば、展示会の付加価値を向上して、出展料金を高くするのも1つの方向性ではないでしょうか?単価をあげ私どもの収益性を向上させるのではなく、出展企業のマーケティング活動や売上向上により貢献できる仕組みをつくるWin-Win な考えです。
その提供できる付加価値はデータだと考えております。展示会場でブースを訪れた来場者と名刺交換しリードを獲得、売上につながる商談をする、といったことに加えて、展示会ではもっと多くのマーケティングデータを獲得できるはずです。すべての来場者のデータを保有しているだけでなく、来場者の行動解析やアンケートなど、取得・解析できるデータは豊富にあります。デジタルマーケティングで得ている情報は私たちでも提供できるはずです。そのことによって、さらに多くの企業のビジネスに貢献したい。
どのようなデータをどう活用するか、サービス展開の形は私が説明するより、マーケティング担当者に説明してもらうのが適任ですので、次号の記事もお読みください。
この展示会高度化は、当社だけでなくほかの展示会会社にも取り組んでいただきたいです。展示会産業が新たなステージに行く時機と捉えて、個々の力を活かし挑戦できる新しい社風に生まれ変わった当社が、まず一歩を踏み出します。
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