コロナ禍で“良くやった”でなく 組織力・経営力向上の機会に — 展示会主催者インタビュー TSO International株式会社 代表取締役 佐々木剛さん

TSOInternational佐々木剛社長

スポーツ・健康、外食、レジャー、冠婚葬祭などの展示会を主催するTSO Intenational代表取締役の佐々木剛さんに、展示会中止・延期について、コロナ対策をしながら開催したCAFERESやSPORTEC WEST、展示会のDXについてのお考えをうかがった。

コロナ禍で“良くやった”でなく 組織力・経営力向上の機会に — 展示会主催者インタビュー TSO International株式会社 代表取締役 佐々木剛さん

来場60%で“満足”は、期待値の低さ

来場者数が例年の6〜7割程度。それでも出展企業の多くは満足いただき、よくやったと言ってくれます。ありがたいことですが、私たち展示会企業が「大盛況でした」というのはいかがなものかと思います。

出展営業・契約の時に3万人が来場する展示会という前提でご検討いただいているので、だいぶ下回っています。コロナ禍で大変なのは事実ですが、もし別業界で同じことをしたら許されるでしょうか。たとえば自動車を購入したのにコロナで部品と作業員不足のため、タイヤが1つ足りない状態で納品しないでしょう。弊社スタッフは良くやってくれましたが、それとコレとは話が違います。

出展者数も同様です。コロナリスクを回避する企業の出展キャンセルを止める手はありません。しかし、展示会場に空きスペースがたくさんあるのは、その産業界自体が元気ないように見えてしまいます。

そのために第一には、営業努力で埋めることですし、それができなければ、会場を一部お返しして、規模は小さくても満杯にする、というのが私どもの方針です。CAREFES、SPORTEC WESTも会場を縮小しての開催となりました。

展示会主催会社が個別にできないようなこと、たとえば出展者・来場者全員にPCR検査するといったことは、業界団体から行政にはたらきかけることが必要かもしれません。

延期と中止 主催者と出展者

TSO International にとってのコロナの影響は、6月17日から19日に東京ビッグサイトで開催予定だった「 SPORTEC × HEALTH FITNESS JAPAN 2020 」を12月2日から4日に延期。7 月 1 日から3 日で予定していたCAFERESが10月5日から7日に延期となりました。10月29日からタイ・バンコクのMAKKASAN EXPO HALLで開催予定のSPORTEC ASIA 2020は中止となりました。2020年度の上半期は売上がなくなり、下半期も開催規模が落ちているので会社の経営としてはダメージが大きいですね。

タイ開催を延期ではなく、中止としたのは会期が1年伸びたら、それは翌年の開催と考えているからです。いただいた出展料を返却でなく持ち越しとするなら延期に、というのはわかりますが、会計年度が超えてしまうと出展者も困ってしまいますよね。

住職と経営の兼務が 働き方改革をスムーズに

コロナ禍による売上減少と同じくらい大変だったのは、開催延期の連絡、開催時の安全対策など、状況が変わるごとに、出展者のご理解を得ることです。もちろん普段から出展者とのコミュニケーションはよくとっているのですが、人的リソースの負担は増えました。

一方で、コロナの感染拡大防止のため、社内の働き方も大きく変えました。

クライアントや協力会社の方はよくご存知なのですが、私は10年前から実家の寺院の住職を継いでいて、香川と東京でリモートワークをしています。そのこともあり、社内の働き方改革はスムーズに行えました。

緊急事態宣言前の3月にはオフィスのオーナーには退去の意思を伝えていました。その時点では、オフィスをなくそうと考えていたのですが、自宅では働く環境が整っていないスタッフがいたり、集まれる場も必要かと考えて、銀座のシェアオフィスを含め3拠点で、仕事ができるようになっています。働き方が変わると求められるスキルが変わるので、これまでオフラインの営業活動で結果を出していた人が、デジタルマーケティングに対応できずにスランプに落ちたり、逆に急に成果を伸ばす人もいます。

緊急事態宣言以降、全員が一斉に集まったことはないですね。しかし、在宅勤務だけになってしまうとストレスになったり、情報の共有やトレーニングなどがうまく行かなかったりするので、オンライン・オフラインを併用してコミュニケーションをとるようにしています。自分の担当以外の企業の状況や、他のスタッフのアイデア、小間割りを考えたりと、実際に集まらないと共有できないことは多いですよね。

展示会のDXはどうあるべきか

社内の働き方についてのデジタルトランスフォーメーション(DX)は進んでいますが、展示会産業は、まだ導入途中と思います。

キャッシュレス決済、受付、入退場管理、 検温、ID照合、追跡、といった来場者周りのほか、与信管理とか営業マネジメントなど業務的なことまで、DXが必要な部分が多いですね。これらのソリューションは世の中の多くで導入済みですから、「展示会産業は遅れている」と出展者に思われないようにしっかり取り組むべきでしょう。

DXのツール自体は日本の社会に浸透していると私は考えています。オフィスや会場ではインターネット回線があり、PCは全員もっていて、メール以外にもコミュニケーションツールがあり、CRMやMAもだいぶ普及しています。

これからの課題は運用とか意識改革の部分でしょう。契約とか稟議とかで押印や書類の原本が必要とか、弊社がペーパーレスにしても、出展者、協力会社、来場者を巻き込んで解決しなければいけませんね。展示会に関わる全員の意識レベルまで変えないといけません。

オンライン展示会は成功しない!?

コロナ禍で、リモートワーク、DXが進むと逆に、実際に集まって話をするオフラインの重要性も見えてきました。これは私たち展示会というリアルの場をビジネスにしているからということだけではなく、他の企業の方も同じように感じているでしょう。

コロナ禍は展示会と他のマーケティング施策とを合わせて考え、オフラインでやるべきことオンラインでやるべきことを再考する機会になりました。

展示会の優位点というと、信頼性の構築だと思います。いまはオンラインで男女が出会うことも増えていますが、ずっとオンラインで結婚することはないでしょうし、オンラインでリモート結婚生活なども、一部はあっても一般的なかたちにはならないでしょう。やはり信頼構築は人と人が会うことが必須だと思います。画面越しではわからない、伝わらないことはたくさんあります。

いま展示会やビジネスイベントがオンライン化、ハイブリッド化してきています。私は、展示会をそのままオンライン上で展開するという発送でのバーチャル展示会はうまく行かないと思います。

デジタルマーケティングは効果がない、ということではありません。ただオンラインの強み、リアルな展示会の強みは別なので、そのままデジタル化しても意味がないと思います。

展示会ブースのコンテンツをオンライン上にアップして、お客さんが来るのを待っているというスタイルは、リアルの展示会であってこそ通じるスタイルだと思います。

いまは過渡期なので、皆さんが色々試行錯誤しているようですが、うまくデジタル化しないと、デジタル展示会はGoogle検索でOK、ということになってしまうので、良い方法を考えなければいけません。

弊社では、展示会のデジタル施策として、実際のバスツアーにみたてて「オンライン来場」というものを実施しています。これは出展者向けのサービスで、その企業のコンテンツに希望する来場者をご案内して、プレゼンを聞いてもらったり、資料ダウンロードできようにしたりと、主催者である私どもが来場者を誘導するしくみを作っています。

実は弊社でもデジタル展示会プラットフォームを構築中なのですが、多くの出展者と来場者を集める、マス型のマッチングではなく、出展者1社向けに提供するプライベートショー支援サービスになっています。展示会主催者としてのデータベースを活用しますが、ビジネスモデルはまったく異なります。

上のようなデジタルマーケティングソリューションを弊社のメインビジネスの1つに据えれば、売上は減ってもコストを下げられるので、十分な利益額を得られでしょう。しかし、これはビジネスをダウンサイズしてしまいます。やはり従来通り展示会を実施することで、会場費や装飾費、電気代、警備、人件費が発生して、それぞれの事業者の売上になります。

その原資となる出展料は、出展企業の売上向上のための投資です、その回収のために売上をあげるための努力やさらなる投資をしていきます。来場者も電車代や会場での飲食もそうですが、その場で仕入れや設備投資の第一歩となります。このように多くの人がたくさんお金をつかうことで、経済は回っていくのだと思います。展示会はその産業を盛り上げるためにありますので、まず経済を回すことは意識しています。

コロナ禍は私たちリアルの場を展示会関係者にとって、短期的には売上減少などダメージを受けていますが、オフラインの再評価、ビジネスモデルの再構築、DX導入など、長期的な面では経営革新の良い機会になる、と考えています。

佐々木剛さん
TSO International株式会社
代表取締役

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